渡辺明四段(当時)の連載自戦記第1回

近代将棋2001年1月号、渡辺明四段(当時)の自戦記「16歳高校生棋士 トップを狙え!」より。

 みなさんこんにちは。今月から自戦記を書かせていただくことになりました。精一杯がんばりますので、ご愛読のほどをお願いします。

 今回は、前田八段とのC級2組順位戦を振り返ってみようと思います。両者3勝1敗で迎えた本局、たがいに落とせない将棋です。じつは対局当日の朝、面倒くさかったので朝食をとりませんでした。それがあとで後悔するとも知らずに・・・

 序盤はスラスラと進み1図の局面で昼食休憩。

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 ここで▲9六歩、▲8七歩、▲1六歩のうちどれにするか大変迷いました。お腹も減ってきて食事に行きたかったのですが「どうせ再開後に考えることになるな」と思ったので持ち時間を減らさないためにも盤の前に座って考え続けました。再開後、一番積極的な▲1六歩を選び、△2四飛に▲2八銀と受け、以下この銀を2七~2六~3五~4六と移動させて、再度の△2四飛に▲2六歩と受けた2図で夕食休憩に入りました。

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 ▲2六歩では▲2七歩が普通ですが、▲2六歩は▲1七桂から▲2五桂を狙った積極的な一手です。

 局面も落ち着き、相手の手番だから食事に行こうと思い立ち上がろうとしたとき、△7五歩がみえました(みえてしまった?)。この手に対し▲同歩と取るのは△8四飛と回られ、▲8七歩に△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7六飛とやられるのが嫌。しかし、ほかの手もむずかしいところです。

 残り時間も少なくなっていて、再開後に長考することはできません。朝から何も食べていないし、食事に行きたいのはやまやまでしたが、仕方がないので考え続けました。(こんなことになるなら、朝食をちゃんと食べておけばよかったな~)そんなコトを思いながら、△7五歩に対する手を必死に考えてました。

 再開後、予想どおり△7五歩とこられました。指す手がよくわからなかったので、▲2六歩と打ったときからの狙いの▲1七桂と跳ねました。後手は角が動けないので(角が動くと▲3二飛成)つぎに▲2五桂と飛ばれるとシビれてしまいます。△4二金は玉を固めつつ、角の動きを自由にした手です。

(中略)

 本局は大変むずかしい将棋でしたが最後はきわどく残していたようです。秒読みのなか、正確に指せたことがうれしかったです。

 終局後、お腹がペコペコで倒れそうになりました。「朝食はきちんととらなくてはいけない」というのが身にしみた一日でした。

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升田幸三実力制第四代名人の「笑えるうちに笑っておけ」という言葉があるが、「食べられるうちに食べておけ」が今日の話の教訓。

食べられるうちに食べておかないと、次にいつ食べることができるか分からない戦国時代の戦いの最中のような過酷な状況だ。

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戦争を経験した人は、次にいつ食べることができるか分からないより以前に、食べている最中に攻撃を受ける可能性が高かったため、食事の際は好きなものから食べる習慣が身に付いたという。私の父がそうだった。

私は逆に、好きなものは最後までとっておく派。

たとえば、とんかつ定食を食べる場合、キャベツを先に全部食べた後、とんかつに手をつけるというような感じ。

子供の頃、野菜が嫌いだったので、そのような情緒のない食べ方になってしまっている。

もっと大人になりたい。

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王将戦は渡辺明王将が防衛を決めた。

竜王戦以降の3ヶ月間で、後手番のゴキゲン中飛車が、渡辺明二冠にとっての定番の戦法の一つとして完全に定着している。

こうなってくると、そこまでは計画されていないかもしれないが、渡辺明二冠の石田流、ダイレクト向かい飛車なども見てみたくなる。

新年度からの渡辺明二冠がますます楽しみだ。