将棋世界2003年2月号、第15期竜王戦〔阿部隆七段-羽生善治竜王〕第4局「阿部、執念の入玉策で逆転勝ちして2勝2敗」より。
阿部の▲2一飛成が鋭い寄せで、▲2三歩成(6図)で寄り形を築いた。以下は羽生の懸命な粘りによって、阿部が寄せを逃して形勢がちょっと混沌としたが、ついに阿部が投了図まで寄せ切った。
「本当の勝負を見ました。投了図の羽生さんの駒台には14枚の歩(例がないという)をはじめ、すべての種類の駒があふれんばかりに乗っています。でも玉だけは取れなかったんです。どうも羽生さんは本調子ではありませんね。阿部さんはだんだんいつもの通りになってきました。勝負はこれでまったくの互角です」
本局の立会人を務めた田中寅彦九段は、最後にこう結んだ。
なおタイトル戦で257手という手数は、45年前の昭和33年・第7期王将戦第2局(升田幸三王将-大山康晴前名人戦)での271手につぐ長手数記録となった。
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6図。阿部隆七段の持ち駒は豊富ではないものの、後手玉が2三のと金を振りほどくのは容易ではない。
6図以下、△2二金▲2四歩△同銀▲同と△3三金打▲同と△同銀▲2五桂△6五飛成▲4三金△9五竜▲8一玉△4三馬▲同銀成△4一飛と、羽生善治竜王(当時)の秘術を尽くした粘りが展開される。
6図から投了図まで90手。
投了図で盤上に残ったのは14枚の駒。6図が盤上23枚の駒なので、駒が7枚減るだけで、これだけ盤上の密度感が変わってしまうとは驚きだ。
焦土と化したような盤面、ほとんどの登場人物も消えてしまったような投了図。
お互いの身を削り取るような両対局者の激闘が繰り広げられたことが物語られている。
羽生竜王の粘りを食い止めた阿部七段も見事だが、6図から粘って投了図の局面まで持ってきてしまう羽生竜王の腕力にも感嘆してしまう。