関西若手棋士の痛烈緊急座談会に対する大反撃

昨日からの続き。

将棋世界1985年3月号、「関西新鋭対談 東西ライバル棋士を斬る」より。

出席者は、谷川浩司名人、福崎文吾七段、南芳一六段、脇健二六段、西川慶二五段。司会は神吉宏充四段。(タイトル・段位は当時)

神吉 まず最初に―、皆さん将棋世界の2月号読んでくれましたか。こん中で田中寅さんがごっついこと言ってますなー。なんや谷川名人が意味のない名人やとか弱い名人やとか。それについて西川センセはどう思いますか。

西川 いきなり僕ですか。(笑)田中発言ねー。前まではねー、将棋の技術的なことばかり言ってたんですけど、最近は歌のことで文句言ったりしてね。(笑)ちょっと発言が子供っぽいですね。

神吉 文吾ちゃんはどうでっか。田中発言は。

福崎 ちょっと言い過ぎちゃいますかー。普通に考えて。

神吉 具体的にどこがひどい?

福崎 ちょっと想像を絶することが書いたるんでねー。とにかく信じられませんわ。

神吉 田中さんのことどう思う?

福崎 あんまり会ってませんけど、変わってますわ。中原先生のことを書かれてますからね。中原さんは十六世名人やし谷川さんも十七世名人の候補やし、そういう人をつかまえて、ああいうのはどうかと思いますわ。そう書いたから面白いとかどうかでなくて、どう意味があるのか。

神吉 うーん、そうやね。南君は?

南 ……ある程度までは将棋界のためにもなると思いますけど、度を越してると思います。将棋界のためにも面白いという意味もありますけど。ちょっと常識を超えてると思います。

神吉 うーん、常識を超えてると。脇先生もそろそろどうでっか。

脇 まああれですね。田中さんとしては谷川さんを引き合いに出すことで自分の宣伝をしているんじゃないですか。アピールというか。でもまあ、ちょっとやり過ぎですね。(笑)

神吉 私もそう思いますよ。谷川さんの将棋以外のことまで言うというのは、私ら谷川シンパの軍団としてはちょっとオモロないですよ。

(中略)

神吉 みんなの気持ちはだいたい分かりましたが、ここらで名人にどう思っておられるか聞きましょう。

谷川 まず、今までの将棋界というのはおとなし過ぎたと思うんですよ。タイトル戦の挑戦者でも「がんばります」ぐらいしか言わないと。そういう意味では彼が出てきたのはいいことだと思うし、田中さんの場合それで売ってきた。例えば対談や座談会なんかでは、彼なら何か言うだろうという期待が周りにありますよね。それに対するサービス精神みたいなものもあるでしょう。ただ、将棋のことなら、皆、名人になろうと思ってやってるんだから「オレが一番強い」みたいに言うのはかまわないと思うんですが、最近は将棋以外の事まで言うようになってきた。この辺は少しおかしいでしょ。

(中略)

神吉 うーん、かなり盛り上がってきましたね。(笑)文吾ちゃん、どう。谷川名人だけ目の仇にしとるちゅうのはどう思う。

福崎 でも先月号では中原先生のことも書いているし。本当にこういって人のことこきおろしてるのが将棋界のためになってるのかどうかですね。

脇 でも、下に向かって文句言わんのはエラいよ。上にしか言わんから。

谷川 会ってみると、すごくいい男なんですよ、彼は。

神吉 それが、どうしてこうなっちゃうのか。それが不思議というか。

脇 やっぱりさっきも言った宣伝という意味もあるでしょ。自分の宣伝もあるし、将棋界の宣伝もあるし。

神吉 じゃあ相手のことは何も考えてないんですかね。

西川 言われることに慣れてないって意味もあるでしょ。将棋界は。芸能界や野球界じゃ、まったく仕事に関係ないプライベートな部分でもたたかれちゃうし。でも、今の将棋界のファン層では面白いと思う人よりも反感買うことの方が多いんじゃないですかね。田中さんがどういうところを狙ってるのかという興味はありますけどね。

神吉 さて、田中発言はこんなところにして、次に関東と関西の若手棋士の比較論というのをやってみたいと思います。性格、棋力、体力など総合的に比較して。まず最初は谷川名人と田中八段。このライバル関係をどう見ますかね。

(中略)

神吉 それでは、ここで少し視点を変えて、福崎七段と田中寅彦八段を比較してみたらどうですかね。

脇 将棋の質は全然違うね。似てるのは両者とも穴熊を得意としていることだけですね。

谷川 (福崎七段に)田中さんはあなたに期待してましたよ。例えば十段リーグに入った時なんか、面白い将棋が見られるんじゃないかって。

福崎 面白い、面白いってばかり言われんねん。(笑)そやけど田中さんはA級八段としては最年少やし、勝率もすごいし、僕は実際B級やし、比べるのはおかしいでしょ。

谷川 そう言うけど、あなた今度、二人が入れ替わる可能性もあるんですよ。

福崎 いや、それはまあ…。

神吉 入れ替わってほしいと。(笑)それはいいとして、二人の将棋を比べてみましょ。福崎さんの将棋は、分からんというか神秘的というか。大駒もなんも関係なくたたき切っていくし。

福崎 おもろいやろ(笑)

西川 二人は対照的ですよね。片方は何でも言うけど、福崎さんは自分のこと何にも言わないから。

神吉 そう、それを白日の下にさらさないかん。そういえば、南君が最近、福崎君の家によく行ってるようやけど、南君に福崎評を聞きましょ。どうぞ。

南 ……。どうと言われても。

福崎 普通やろ。

神吉 ほな、ゲームやってる時はどないや。

南 ゲームやってる時は……明るい。

神吉 ほな将棋指してる時は。

福崎 普通やなあ。

南 将棋やってる時は……ちょっと怖い。

一同 大笑い。

福崎 ほんでも今日、ここにきてる人間はみんな人のこと言われへんくらい変わってんのやからな。ほんま人のこと言われへんで(笑)

谷川 福崎さんの将棋は○○二世とか言われませんよね。それだけ独創的だと思いますよ。

西川 去年、福崎さんと一局指したんですよ。その日の朝、駅で偶然会ったんですよね、福崎さんと。そしたら会うなり「西川君、今日はなに?」と聞かれましてね。びっくりしましたよ。

福崎 そんなことあったかいな。

脇 そんで将棋は?

西川 いや、まあ……ゆるめてもらいました。

一同 笑い。

福崎 西川君は汚いんや。脇君とやったら「今から行くで―」ってかっこうで攻めてくるけど西川君は横向きながら攻めてきよんねん。ドッジボールであるやん。横向きながら投げるやつが。あれとおんなじや(笑)

(中略)

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関西若手棋士の座談会、(中略)にしてある部分では、もう少し手厳しい発言も出ている。

福崎文吾七段(当時)は、後半で現在に近いキャラクターが出ている。

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いろいろなことがあったのか、田中寅彦八段(当時)が連載中の「名人、A級十人 ここが強い」は、田中八段の意志で痛烈緊急座談会が掲載された翌月号で急遽最終回となる。

将棋世界1985年3月号、田中寅彦八段の「名人、A級十人 ここが強い」より。

 まず根底に、中原先生を見て育った私には、名人とは絶対的に強いものなのだという気持ちがあります。いろいろなタイトルを取り、名人位を守り、優勝を重ね、序盤のわずかな有利をそのまま生かし、勝ち切るすごい人でした。その名人を破る、これが私の望みです。

名人は一つのタイトル名ではなく、棋界の最強位なのだと思います。

谷川名人、米長四冠王、ともにすごい人だと思います。素晴らしい人間だと思います。しかし、名人以外のタイトルを持たない名人、名人を取らない四冠王……それでは本当の天下人、本当に強いとは言えないのではないかと、今も思っています。

先月号での私の発言は、座談会もこの講座も、将棋の本筋とはかけ離れ、将棋ファンの皆さん、棋界の諸先輩にまで不愉快な思いをさせてしまい、申し訳なく、反省しております。

私自身、四、五段の時から言いたいことを言ってきて、名人になると言って気違いかとも言われましたが、自分の思うところをあえて言う。例え人の将棋に対する評価でもこれは大切なことだと、プロ棋士として必要なことでもあるのではないかと思っています。

しかし、今回はまさに犬の遠吠え。将棋とは関係のないところにまで踏み込んで、それを自分の尺度で論じたり、嫌味を言ったり、本当に、なにをそんなに焦ったのか、恥ずかしく思っています。

中原先生はいつもの口調で「こういうことは自分に返ってくるからね」と言われました。一応、弟弟子ではありますが次回当たった時には、きっと本気で弟弟子とは思わず相手をして下さると思います。その時は必ず、恥ずかしくない棋譜を残したいと思います。

強くなりたい、誰にも有無を言わさないほど強くなりたい。

未熟ゆえに、思うところを表現できず横道にそれて、恥をさらしたままで終わるのは残念ですが、「技は徳にまさり、徳は技にまさる」という先人の言葉を思い出しつつ、とにかく私には技を磨く以外にはないと思いました。

(以下略)

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将棋世界1985年4月号、加藤治郎名誉九段の「この面白い芝居からは、目が離せないねえ」(前編)」より。聞き書きは香太さん。

 今の将棋界の隆盛の端緒となったのが名人戦が出来た時で、それが昭和10年でしょ。ボクらがその頃、ようやくこの世界に入ってきた。だから将棋界の黎明期から今の隆盛期までずっと見てこられたわけで、そういう意味では一番いい時に生まれてきたかもしれない。

今の若い人でも”ああオレはいい時代に生まれてきたなー”って思っている人がいっぱいいますよ。そういう人は必ず伸びていくね。

今、田中(寅)八段がいろいろ問題になっているでしょう。あれは活字になると強く響くんだよ。笑い顔で「谷川とか米長とかあんな弱い将棋」とか言って、その前に「神様より」とか入れればなんでもないし、彼だってそんな悪意があって言っている訳じゃない。確かに言い過ぎの部分はあるけれども、だけど彼なんかは「私はいい時代に生まれてきました」っていうことをちゃんと認識してるからね。これは大したものだと思うよ。

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「名人以外のタイトルを持たない名人、名人を取らない四冠王……それでは本当の天下人、本当に強いとは言えないのではないかと、今も思っています」

は、非常に切れ味が鋭い。

有言実行、田中寅彦八段は、この3年後、棋聖位を獲得する。

 

 

「関西若手棋士の痛烈緊急座談会に対する大反撃」への1件のフィードバック

  1. 田中九段や塚田九段は洒脱な語り口で人気を博していますが、オジさんばかりだった「真っ黒な業界」に華やかさを持ちこんだセンスが現代まで通用していて素晴らしい先見性ですね。
    中原十六世、谷川名人を思うあまりに理想像を押しつけ過ぎて大反発を食ったのは痛恨の極みだったことでしょう。

    他にもお洒落な島九段、女子アナを射止めた中村九段、現代サブカルに通じる高橋九段等々、まさしく個性のカンブリア大爆発とでも言いましょうか。
    それらは現在の観る将やメディア露出の激増にも繋がることで、強さと華の二兎を渇望したフロンティア精神は今最高の形で顕現したと思います。

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