将棋世界編集部に考えられないような抗議の電話や投書が殺到した出来事

将棋世界1985年9月号、野口益雄さんの「詰将棋サロン解答」より。

 今回は詰将棋と無関係のことを書く。

 私が本誌を編集していたころ、各界の有名人愛棋家を編集部が訪問してお話を聞く欄があった。何回目かに参議院議員の山東昭子氏を訪問した。

 すると発売日から抗議の電話や投書が殺到した。こんなこと初めての経験なので驚いた。お役人の気の弱い人だったらマッサオになるだろうと思った。

 おおむね「選挙直前なのに政治家を公共の誌面に登場させるとは、けしからん」という趣旨であった。約1ヵ月その抗議は続いた。

 ヘエー、政治に関することは採り上げないのがよさそうだ、とその時は思った。

 しかし、今になって考えてみると―。

 赤旗まつりの将棋会に私が取材に行って写真をのせたこともある。その日は宮本書記長の昼食会に思いがけず招かれたり、翌日のアカハタの第一面の片隅に私の名前ものっていたり。だが何ひとつ抗議や反響はなかった。

―こうしてみると、政治関係の苦情・反感というのは、時の野党側から生ずることが多いらしいと、いま思いついた。与党側のほうは「金持ちケンカせず」抗議もせずなんだなァ。

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野口益雄さんは元・将棋世界編集長。

たしかに、もっと前の年の将棋世界に「選挙直前なのに特定の政治家を誌面に登場させるとは、けしからん」という読者からの投稿が載っている。

私はそれを見て、何と狭量な意見なんだ、と思ったものだった。

野口さんは「政治関係の苦情・反感というのは、時の野党側から生ずることが多いらしい」と書かれているが、この投稿された方が支持する政党が与党になったとしても、この方は同じ投稿をするのではないかと思う。

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「自分の意見は正義である、その正義の前には、あらゆる異論を認めない」という方々が一定数いることは昔から変わらない。

平和平和と騒ぎながら平和のためには多くの犠牲がはらわれても仕方がないと思っている人、人権人権と騒ぎながら自分と考えの違う人達に暴力をふるったり暴言をはく人、反原発を騒ぎながら、北朝鮮の核実験には何も言わない人。

ネットでも見かけるが、これらの人たちは、どんなにダブルスタンダートと言われようが、自分が思う正義の前には自分のやっていることが絶対的に正しいのだからそんなことは関係ない、という考えなのだろう。

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他人を厳しく批判しながら、自分もひそかに同じことをやって、それが週刊誌に報道され、所属党を離党した女性議員がいた。

不倫には賛成はしないが、不倫疑惑という、あくまで個人的なことなのだから、政治家がそれで責任をとったり辞めたりする必要はないと私は思っている。

しかし、他党の議員の不倫を厳しく非難し、他のことでも国会などで激しく人を追求することもある議員だったようだ。

他人に言った言葉が自分に返ってくる事を意味するブーメランという言葉が最近よく使われている。

この議員の不倫疑惑騒動のニュースを耳にした時、私の頭の中には「ブーメラン」とともに「人を呪わば穴二つ」という言葉が浮かんできた。

出演したテレビ番組でのコメントで他党の議員の不倫を厳しく非難することは別に悪いことではないが、その後の自分の行動が結果的にはこのテレビ番組でのコメントを呪いの言葉に変化させ、自らも穴に落ちてしまった、という流れ。

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「人を呪わば穴二つ」の語源は、平安時代、加持祈祷を生業とした陰陽師が人を呪殺しようとするとき、呪い返しに遭うことを覚悟し、墓穴を自分の分も含め二つ用意させたことに由来しているという。

転じて、人の悪口を言っても自分にとっては何の良いこともなく、むしろ悪いことが降りかかってくる可能性のほうが高い、というように解釈している。

なかなか、実行するのは難しい心がけではあるが。