米長邦雄二冠(当時)「王将就位式では、ぜひ伊代ちゃんとのブチュッを見せてくれるよう希望する」

昨日の王座戦第4局で中村太地六段が羽生善治王座に勝ち、3勝1敗で王座を獲得した。

今日は、31年前、23歳の中村修王将が誕生した時のこと。

将棋世界1986年5月号、毎日新聞の加古明光さんの「第35期王将戦終わる 中村新王将誕生! -ヤングパワーの台頭-」より。

 騒然とする控え室。色めき立つ関係者。それでも午後6時からの夕食休憩には入るだろうと誰もが思っていた。夕食も注文してある。それが午後5時40分、中原の投了となる。我先にと対局室に駆けつける報道陣。夜のローカル番組で流そうとしていたNHKも「中村勝ち」も報に雪の中を急きょ、甲府から来るという。降り続く雪と対照的に、室内は熱気に包まれた。

「3連勝後の2連敗でちょっと焦りました。数多く教えてもらうつもりでシリーズに臨みましたが、予想外の展開となって早く終わりたいと思っていた。王将―大変に光栄なことなので、しっかりしなければという気持ちです」。この言葉が出てくるまで、かなりの時間がかかった。その間、じっと盤上を見続ける中原。通算7期、前年米長から奪った王将を1年で手放す心境は、複雑だったに違いない。

「やはり3連敗をくつがえすのは大変なことですね」。ちょうど3年前、谷川が当時の加藤一二三名人から名人を奪ったのと全く同じ展開で23歳の中村が新王将の座に就いた。

(以下略)

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将棋世界1986年5月号、中村修王将(当時)の第35期王将戦〔中原誠王将-中村修六段〕第6局自戦記「三度目の正直」より。

 一昨年米長棋聖に初挑戦して以来、これでタイトル戦は三度目。過去二回は何れも米長棋聖の前に2勝3敗、0勝3敗と涙を飲んでいる。そして今回は中原名人である。

 ストレートで負かされるとは考えなかったものの、少しでも番数多く指す事が正直な希望であった。王将戦に挑戦した直後、ある友達が「今からでも頑張るなら棋聖戦(当時2連敗)の方がチャンスがある」と言ったが、私もそうかなという気がしていた。(米長先生ゴメンナサイ)

 それだけ中原先生には威圧感があり、番勝負には絶対という空気があった。

 今回の結果は奇跡という他はないが、たまたまめぐり合わせが良かっただけだと思っている。次に教えていただく時に手合違いで負かされないよう少しでも近づければと今はそう思っている。

(以下略)

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将棋世界1986年5月号、「衝撃の王将戦を見て 棋士たちの声、声 ―プロ棋士12人に聞く―」より。

元名人 升田幸三

 中村が王将を取ったと言われても、私は会ったこともないし、将棋も見たことがないので分からん。だから何も感じんね。

 ただね、私のような第三者から見ると、今はタイトルが増えて、タイトル持っとるもんには忙しすぎるんじゃないか。あとこれは想像ですが、対局料が安いんとちがうか。対局料が安けりゃ、力は入りませんよ。

十段・棋聖 米長邦雄

 中村君が勝っても、不思議ではないんじゃないか。どちらが勝っても、格が違うとか力が違うとか、そういうことではなく、二人が戦ったら片方が4-2で勝ったということでね。棋聖戦では3-0で私が勝ったが、あの時でも3局目勝たなければ、逆転負けかとの気持ちがあった。それはともかく中村新王将は松本伊代ちゃんのファンとか。王将就位式では、ぜひ伊代ちゃんとのブチュッを見せてくれるよう希望する。

(中略)

七段 佐伯昌優

 まずおめでとうと言いたいですね。暮れに忘年会を家でした時、中原さんが相手だが頑張って取って欲しいと言ったんです。しかし、正直言って、ひどい負け方だけはしないが、勝てるとは思っていませんでした。だから本人が一番びっくりしているんじゃないかな。七番勝負では本当によく頑張ったと思います。内容もよかったし、これからは健康に気をつけて、王将らしい将棋を指して欲しいですね。それから順位戦の方もね(笑)。

(以下略)

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時代は常にニューヒーローを歓迎する。

23歳の中村修王将誕生の時も、週刊プレイボーイなど一般誌が記事を掲載している。

中村修王将は、翌期も中原誠名人の挑戦を退け、防衛を果たしている。

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升田幸三実力制第四代名人の談話が大胆だ。というか、これが升田流の通常モードでもある。

まだ実力制第四代名人の呼称が決まっていなかった頃なので、元名人となっている。

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中村修王将の師匠の佐伯昌優七段(当時)の談話も、師匠らしい愛情に溢れている。

「それから順位戦の方もね」も師匠ならではの言葉。

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米長邦雄二冠(当時)の「王将就位式では、ぜひ伊代ちゃんとのブチュッを見せてくれるよう希望する」は、あまりにも唐突な感じがするが、実は、将棋世界の同じ号に次のような写真が掲載されている。

米長棋聖就位式で、お祝いに駆けつけた女優の眞野あずささんが、ブチュッ。

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米長邦雄永世棋聖は、天国から、弟子である中村太地新王座に、どのようなお祝いの言葉をかけているだろう。

やはり、米長流で「王座就位式では、ぜひブチュッを見せてくれるよう希望する」の一言も、最後に忘れずに入れているような感じがする。