せっかちな大山康晴十五世名人(前編)

将棋世界1986年6月号、毎日新聞の加古明光記者の「中原・大山を追う 名人戦24時間レポート」より。

 社会的な事件ともなった大山十五世名人の名人戦七番勝負登場。受けて立つ中原名人。”二人の名人”戦になった今シリーズ、第1局のドキュメント。

4月9日

14:15 東京駅新幹線ホーム。ホーム上にはテレビ局、雑誌、週刊誌などのカメラが待機中。浜松に向かう”63歳名人”の取材陣。

だが、大山は姿を見せず、連盟に電話を入れたところ「間に合うように出た」と返事。

14:20 発車1分前。まだ姿が見えない。テレビなど「次の列車までスタンバイします」

14:22 動き出した「こだま」の車内前方から、バッグを持った大山、ひょいひょいと歩いてくる。前方の最も近い階段から飛び乗ったらしい。

中原は単独行動で、この時間にはすでに西下中。

16:20 浜松着。ここからがまた早い。一行のトップを切って階段を降り、タクシーに乗って「さア行きましょうや」

16:40 グランドホテル浜松着。先行していた中原がロビーにいた。「やあ、どうも」と二人のあいさつ。

17:00 対局室となる聴濤館「菊の間」をそろって下見。ライト、盤の位置、OK。駒について大山、記録係の堀川二段に「あれ持って来たでしょ」。香月作の逸品。「だが、裏返すとちょっと分かりにくいんだよね」。桂や銀の裏側がよく似た書体になっている。

中原「そうですね、一分将棋になると間違えそう」。

盤を提供する地元社長、渥美雅之氏の駒について。二人「いい駒だが、もっと使い込んであるといいね」。宮松作の巻菱湖。

結論―一日目は二つの駒を交代で使って二日目は「名人駒」。

下見を終えてすぐ「前夜祭までまだ時間あるでしょ。一局(マージャン)やりましょう」(大山) 「私は部屋にいますから」(中原)

18:30 地元、栗原浜松市長らを交えて前夜祭。談笑、約1時間半。「まだ、何か出るの」と大山。「これで終わりです」のおねえさんに「じゃ、行きましょうや」マージャンの誘いに中原「私は今日は見ていますから。あとで娯楽室へは行きます」

22:00 二人とも娯楽室から消える。

4月10日

8:50 歩調を合わせたように、同時に対局室入り。小雨。昨日、取材し損ねたテレビ局も交じって、対局室、ぎっしり。

堀川二段が中原側の駒で振り駒。「歩」3枚。「中原名人の先番です」。

9:00 立合い、加藤治郎名誉九段「では始めていただきます」

開始まもなく大山、室内につけられたモニターテレビ用のカメラに「マイクがついている。音が入ってんじゃないの」のクレーム。ホテル側と話してみると、マイクはセットで付いているが、音は入っていないとの事。一件落着。

11:00 「昼食、何にしましょうか、浜松だからうなぎはどうでしょう」。中原、大山「そう、それでいいです。何かフルーツをつけて」

11:28 大山、ロビーに出て関係者と立ち話。まもなく対局室に戻ったが、席をはずしている間に中原が指しており、大山の手番。「(相手が)指したら呼びに来なさいネ。さがせば分かるんだから」。堀川二段「ハイッ」。

11:50 大山「第3局(飯塚)の往復スケジュール、どうなってますか。帰りは朝一番の飛行機にして下さい」

中原「皆さんは?(12時20分と聞いて)私は一緒でいいです」。

12:28 「じゃ、休憩に」と大山、立ち上がる。駒がここで交代する。駒を取り換えて第一手から指し直す記録係に中原、冗談っぽく「違う形にしないでね」。

14:40 接待係の女性がホットミルクにケーキを持って入室。「どんどん持ってきて」(大山)

16:00 夕食注文。「皆さんは」「今夜はホテル側にまかせてあります。和食ですけど」「それでいいです」(中原、大山)

「食事、6時半?もっと早くしなさいよ」(大山)。「だって5時半に封じて、着換えにホテルへ戻ってまた来るの面倒くさいじゃないの」。

 第1局の大山、ことのほか、何にでも早いペースを要求する。「6時には食べられるようにします」

17:23 このまま封じ手か、と控え室。テレビで大山の手が動いて7三角。「あれ、あれ指しちゃったよ」と副立会、石田和雄八段。

17:30 加藤名誉九段「封じ手番になりましたから、この次の一手を」。中原「ハイ、ハイ」と2回の返事。

17:33 「じゃあ」と中原。封じる意志表示を見せる。

18:10 夕食の場に姿を見せたら、大山がいない。「もう済ませて(マージャンの)待機中」とスタッフ。第1局、大山、アルコール類、一切口にせず。

19:00 夕食の場で中原、ゲストのソニー部長と談笑。ウォークマンなどの商品開発の話に耳を傾ける。

21:30 ホテル最上階のラウンジにいたら、大山から電話あり。「私の代わりにマージャンに入りなさい」

 中原、雀卓の脇にいただけで加わらず、二人ともほどなく姿を消す。

(つづく)

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14:15 東京駅新幹線ホームに大山康晴十五世名人がまだ到着せず、加古明光記者が将棋連盟に電話を入れていた頃、大山十五世名人は国電(総武線または中央線)に乗っていた。

下の写真は、14:00頃の大山十五世名人。(将棋世界同じ号のグラビア掲載の写真。撮影は弦巻勝さん)

将棋会館での理事会を済ませてから千駄ヶ谷駅から乗車。

「車は時間がどのくらいかかるか分からないからね、大事な用事の時はいつも電車ですよ」との談話が載っている。

それにしても、電車の中でひょいと後ろを振り返って、そこに大山十五世名人がいたとしたら、相当ビックリすると思う。

発車30秒前にホームに到着したという。

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対局前日の検分から前夜祭までのわずかな時間を惜しんでの麻雀。そして、前夜祭が終わってからの麻雀。

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一日目夕食、18時からに開始時刻を変更をして、18時10分には夕食を食べ終えているという恐ろしいスピード。

本来なら順番に出てくる料理を、最初から全部出してもらうようにするのが大山流。

たしかに、懐石料理のようなものなら、品数は多いが一品あたりの量は少ないので、10分もあれば食べ終えることは可能だ。

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「私の代わりにマージャンに入りなさい」が、とてもいい味を出している。

 

 

 

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