車の免許を持つ棋士が少なかった時代

将棋マガジン1987年1月号、コラム「棋士達の話」より。

  • 最近増えたといってもまだ車の免許を持つ棋士は少ない。その中で古豪の佐瀬勇次八段は趣味がドライブという変り種。しかし米長邦雄十段ら弟子達は皆無免許。そこで師匠運転、弟子座席という図がよく見られる。これが一門和合の秘訣?

  • 島朗六段も免許を持つ。沖縄旅行でレンタカーを借りたが、曲がる道を一本間違えあわててハンドルを切ったため対向車線に入る。中央分離帯があって戻れず次の交差点まで”勝負”と叫んで走ったという。こういう人に免許を渡してはいけない。

  • 変わり者の多い棋士達の中でも仙人と呼ばれるのが富澤幹夫八段。ある時交番が脇にある交差点で赤信号を無視して道を渡り、クラクションの渦となった。驚いた警官が注意したが平然と一言「ここに交番があるからひかれないと思いました」

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「ここに交番があるからひかれないと思いました」

少しだけ感覚が理解できるような感じがする。

警官が見ているのだから、まさか目の前で轢くようなことはしないだろう、という感覚だろうか。

それにしても恐ろしい。

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1987年のこの当時、運転免許を持つのは丸田祐三九段、有吉道夫九段、大友昇九段など、かなり限られていた。

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私も運転免許を持っていない。

中学時代、バスに乗っていて、バスが狭い曲がり角を見事に曲がるのを見て、自分にはとてもこのような技は使えない、免許は取らない方がいいかなと思い始めるようになる。

高校時代、バス通学をしていたが、途中の停留所に運転免許試験所だったか運転教習所があり、ここで降りていく人達にリーゼントの怖そうな若者(この当時、暴走族の全盛期だった)が多く、このような怖そうな所には行きたくないと思い、更に運転免許を取ろうという気持ちは薄くなる。

大学時代、酒を飲み始めるようになると、なぜかはわからないが、運転免許を持ったら絶対に飲酒運転をしてしまうだろうという確信を持つようになった。酒が強かったからだと思う。

そういうこともあり、今に至るまで運転免許を持とうという気持ちには一度もなったことがない。

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ところで、平成になってから、運転免許を持つ棋士が増えてくる。

どうして、それまで運転免許を持つ棋士が少なかったのか、理由はわからない。

少なくとも、私と同じ理由ではないことは確かだと思う。