「本の通りに負ける方が悪い」

将棋マガジン1987年1月号、コラム「棋士達の話」より。

  • 棋士はよく扇子を持ち歩いている。対局中は頭に血が昇るので冷やすために使うのだが、中には自分の頭をタタいてリズムをとる者もいる。ある時扇子を忘れた石田和雄八段に新品を貸したところ、対局終了後に戻された物は無残な姿になっていた。

  • 野本虎次七段(当時四段)が加藤一二三九段相手に定跡書通りの展開となり、一手ずつ本を読みながら指して勝った。後日異論が出たが「本の通りに負ける方が悪い」という声が大勢で不問。この本は故・山田道美九段著の『現代将棋の急所』

  • 最近はカラオケ全盛だが、棋士間にも歌好きが増加した。しかしいつの世にも音痴はつきもの。ある時舞台で歌った田丸昇七段、司会の人に「今度は知っている歌をお願いします」。もっとも今は月謝を収めたため格段の進歩をとげたという説もある。

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現在では、石田和雄九段の扇子の話は有名になっているが、この頃から話が世に出始めたのかもしれない。

闘志をかき立たせるために扇子で頭を叩くという説明もある。

石田和雄九段とぼやき

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山田道美九段の『現代将棋の急所』は昭和40年代に文藝春秋から発行された厚い書籍。

山田定跡が元となっており、振飛車党の人が読むとかなり落ち込んでしまうような内容だった。

この、野本虎次四段-加藤一二三八段戦(段位は当時)は、1969年の王位戦予選と思われる。

次のような展開だった。

1図からの指し手
△8六同歩▲同銀△8二飛▲6五歩△同歩▲7五銀△5一角▲8四歩(2図)

2図からの指し手
△4五歩▲同銀△4四銀右▲同銀△同銀▲6四歩△3三角▲6三歩成、以下、79手で野本四段の勝ち。

どこまでが『現代将棋の急所』に載っている手順かはわからないが、定跡というよりも、山田道美八段(当時)の研究手だったのかもしれない。

加藤一二三八段の応手が正しくないと、数手で本から離れてしまうわけで、そういった意味では加藤一二三八段と山田道美八段の読みが合っていたということになる。

まさに古き良き時代の出来事だ。

 

 

 

「「本の通りに負ける方が悪い」」への4件のフィードバック

  1. 「一手ずつ本を読みながら指して」のくだりが非常に気になります。それではカンニングではないでしょうか。

    1. 書いてある通りです。本を読みながら指したけれども不問とされたということです。カンニングという言葉は適切ではありませんね。本に載っていることが正しいかどうか分からないわけですから、手を試すにもリスクは伴います。50年前のことですし、このことの良し悪しを論じるつもりは全くありません。

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