「谷川先生が怒っているんですよ」

将棋マガジン1985年2月号、川口篤さん(河口俊彦六段・当時)の「対局日誌」より。

 そうこうしているうちに昼休みとなり、外に出るついでに3階の編集室に寄ると、ちょうど谷川が憮然たる表情で出て行ったところだった。『将棋世界』誌のS君が「谷川先生が怒っているんですよ」という。

 理由を訊くと、2月号に載る若手棋士の座談会での田中(寅)の発言が気にさわったらしい。

 原稿を見せてもらうと、なるほどと思わせられる。

 予告編として1箇所だけ紹介すると―。

田中「あの人(中原)のことを思うと、今まで目標にして来ただけにすごく不満ですよ。こんな人ではないと思うから。それが谷川とか米長とか、あんな弱い将棋が勝っているのですからね」

(塚田に向かって)「絶対谷川を優勝さすなよ。僕は負けたんで申し訳ないが、2年連続優勝を許すと、もしかしたら強いんじゃないかと世間が錯覚する」

 といった調子である。おもしろい個所はまだまだたくさんあるが、引用も一部だと田中(寅)の真意が曲げて取られる恐れがある。いたずらに谷川を弱いといっているわけではないので、来年初めに発売される『将棋世界』2月号をお見逃しなきよう。

(中略)

 田中の発言はアッという間にひろまり、みんなたまげた。米長に原稿のコピーを見せたら、「これはおもしろい、ぜったい削るな、といってよ」とゲラゲラ笑った。大山は、そんなことは好ましくない、という顔。

 特別対局室へ行くと、谷川は席を外していた。中原が「見てください。50手まで角道を開けないなんて珍しいでしょう」という。9図がその局面である。

「ははあ、弱い名人なら角を使わなくてもよいというわけか」と呟いてたら「冗談じゃあない。そんな刺激するようなことは云わないでくださいよ。

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将棋世界1985年2月号の記事というのは次の座談会。

痛烈緊急座談会(昔の棋士たちはよく我々と若手は鍛えが違うといいますが、それはどうでしょうか)

痛烈緊急座談会(河口六段などがよく今の若手は型にはまりすぎるとか面白みがないとかいいますが、それはどうですか)

それに対する関西若手棋士軍団の座談会も将棋世界1985年3月号で行われている。もちろん猛反発。

関西若手棋士の痛烈緊急座談会に対する大反撃

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編集部から過激にやってほしいと依頼があり、過激な座談会になったようだが、面白い時代だったことがわかる。

田中寅彦九段は、その頃のことを振り返って、twitterで次のように書いている。