「あの人達は黙っているのが一番得意なの」

将棋マガジン1991年12月号、鈴木輝彦七段(当時)の「つれづれ随想録」より。

「黙らせたら日本一」というのが将棋界で、感情を悟らせない事にかけては大変な集団である。

 ある時、林葉女流名人の友達数人の女子大生が若手棋士と会ったが、「何もしゃべってくれなかった」と感想を洩らしたそうだ。

「あの人達は黙っているのが一番得意なの」と林葉さんのフォローにならないフォローがあったと聞いた。

(以下略)

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黙っているのが一番得意、というのも大いにありだと思うし、そのような時期もある。

男子高に通っていた時代を思い出すと、高校時代の3年間で、(自分の年齢プラスマイナス10歳)の女性と話をしたことなど、5回あったかどうか。

女性と話をしろと言われても、

「昨日のジャイアント馬場-大木金太郎戦での馬場さんのジャンピングネックブリーカードロップは最高だった。テレビで見ました?」

「コブラツイストって、本当に痛い技なんでしょうかね?」

「4の字固めをかけられたら、うつ伏せになるように体を回転させれば、逆に相手が痛がりますから、一度試してみてください」

「ザ・シークって口から火を吐くんですよ」

「やっぱり、プロレスは猪木の新日本よりも馬場さんの全日本だと思います」

のようなプロレスの話しかなく、

歴史上の好きな人物を聞かれても「平重盛」、最近読んだ本を聞かれても「江戸川乱歩の『陰獣』『芋虫』」としか答えることができなかったから、目の前に複数の女性がいても、じっと黙っているしかなかったと思う。

こればかりは場数を踏まないと、なかなか難しい。