ライバルの必要性

将棋マガジン1984年6月号、内藤國雄九段の「阪田流向飛車」より。

 二代目若乃花、現在の間垣親方が横綱になった時のこと「あなたのライバルは」というアナウンサーの質問にこうこたえました。

「それは隆の里です」

 当時隆の里は成績振るわず糖尿を病んで、もうくにへ帰ろうかという瀬戸際に立っていたのです。

 その隆の里が横綱になって、心境を聞かれたときこうこたえています。

「あの時の横綱の言葉が何よりもはげみになった」と。

 花の横綱と騒がれて、とうに自分を引き離している人が尚も忘れずに自分のことをライバルと呼んでくれたという事に彼は感激し発奮したのです。そして見事その期待にこたえたのは皆様ご存知のところです。

 ライバルという言葉には、たとえば武蔵と小次郎のように相手を打ち殺してしまうという厳しい面がありますが、一方互いに手を取り合って成長していくという暖かい面もあることを見落としてはならないと思います。

 衆人の前で関根名人にこっぴどく負かされた阪田三吉は(そのときショックで10日も寝込んだと自ら語っています)名人を一生の敵とみなすようになりますが、この偉大なライバルの存在のおかげで見事に大成することが出来た――といっても過言ではないでしょう。

(以下略)

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話は古くなるが、『巨人の星』に主人公・星飛雄馬のライバルである花形満、左門豊作、オズマ、(関係性は異なるが)伴宙太が出てこなければ、ストーリーが全く成り立たなくなってしまう。

『平家物語』に源氏が出てこなければ、やはり起伏のない話になってしまう。

切磋琢磨の関係はもちろんのこと、ドラマ性においてもライバルという存在は大事だ。

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将棋界でいえば、

  • 関根金次郎十三世名人と阪田三吉名人・王将
  • 木村義雄十四世名人と升田幸三実力制第四代名人
  • 大山康晴十五世名人と升田幸三実力制第四代名人
  • 中原誠十六世名人と米長邦雄永世棋聖
  • 羽生世代の棋士同士

が代表的な「宿命のライバル」関係だろう。

羽生世代よりも先の「宿命のライバル」の構図がどのようなものになっていくのか、興味は尽きない。