将棋世界2005年12月号、飯塚祐紀六段(当時)の「矢倉で強くなろう!」より。
私がデビューして間もない新人だったころのお話です。大ベテランの先生と対戦、思いがけず力を出せる展開となり幸運にも快勝となりました。
感想戦も終わり頃、「今日はご祝儀だからな!」と先生が一言。続けてぼそっと「次はこうはいかない」。
軽い冗談だったのかもしれませんが百戦錬磨のプロの気概と矜持を感じ、この世界で生きていく厳しさを教えられたような気がしました。あるいはご祝儀はこの言葉のことだったのかもしれません。
それから数年後のことです。ある対局で必勝の将棋を落としました。詰ます必要のない局面で詰み手順に出て、しかもすっぽ抜けるというあまりにひどい独り相撲でした。
終局直後ふらふらと席を立つと、たまたま居合わせたのでしょう、先のベテラン先生に「今日はいい勉強をしたな」と声をかけられました。こうした一言に大変助けられ、またありがたく感じるときがあります。勝負の機微を含んだ、酸いも甘いも噛み分けた一言が妙に心に引っかかるときがあります。
(以下略)
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このベテラン棋士が誰なのか調べてみた。
すると、該当しそうなのが飯塚祐紀七段のデビュー戦の相手、剱持松二七段(当時)。
剱持九段なら、このようなことを絶対に言ってくれそうだ。
剱持九段は後輩の面倒見が非常に良かったとともに、大いなる自信家でもあった。
あの超厳しい力道山にも気に入られたわけだから、その人間的な魅力は計り知れないものがあったのだろう。
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