必殺シリーズ脚本家の詰将棋

近代将棋1977年1月号、伊藤果四段(当時)の「前号 詰将棋鑑賞室」より。

東京 安倍徹郎氏(入選2回)

▲2四桂△2二玉▲2三歩△1三玉▲1二桂成△2三玉▲3四銀△3二玉▲3三歩△同桂▲2三銀成△同玉▲2二金まで13手詰

 作者「詰将棋は生涯一作だけだと思っていましたが、ヒョンな事からもう一作できました」。作者は”必殺仕掛人”シリーズを書いておられるシナリオライター。詰将棋のシナリオは如何なる出来か拝見しよう。

 ▲2四桂、▲2三歩と押さえて、5手目の▲1二桂成が味な捌き。6手目△2三玉が面白い逃げ。

 7手目▲3四銀から、収束の▲2三銀成までの手順はやさしいがリズムがある。

 小駒図式で実戦形、手順も軽快で、作者快心のシナリオではないだろうか。

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安倍徹郎さんは、『必殺仕掛人』以来の必殺シリーズをはじめとして、多くのテレビドラマ、映画の脚本を手がけている。

この時代の脚本家としては、石堂淑朗さん、ジェームス三木さんも将棋が大好きだった。

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1977年2月に放映された『新・必殺仕置人』第五話「王手無用」が安倍徹郎さんの脚本。

将棋好きな不良旗本たちが、伊藤宗看(伊藤果四段)の弟子筋にあたる女性将棋指しを刺殺。

伊藤宗看が頼み人となり、最終的には旗本たちは仕置人に仕置される。

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最終盤に煙詰が出てくる。

伊藤宗看(伊藤果四段)が煙詰の最終手を指して「この玉はあなたの命だ」と言って、首領格の旗本(菅貫太郎)を残して去る。

そのすぐ後、念仏の鉄(山崎努)が現れ中村主水(藤田まこと)によって旗本は殺される。

ストーリーについては次の二つのブログが詳しい。

「今度の仕事は煙詰めだ」 新・必殺仕置人 第5話(こたつねこカフェ)

王手無用~必殺の一手「煙詰」~「新・必殺仕置人」より[追記あり](諸國へめぐり徒然探訪帖)

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殺された女性将棋指しを演じたのは横山リエさん。

横山リエさんは個性的な女優として活躍していた。『ゲバゲバ一座のちょんまげ90分!』にも出演している。

Wikipediaの芹沢博文九段の項には、

妹弟子蛸島彰子が時代劇『新・必殺仕置人』の『王手無用』の回に女性棋士役でゲスト出演することになったが、一部の撮影が済んだ段になってから芹沢が「女流とはいえ名人、それが〔殺されて〕コモかぶりでは将棋のタメにならない」と番組プロデューサーに猛抗議を繰り広げた。この芹沢の介入の結果、蛸島が役から降ろされ、撮影済シーンも全てお蔵入りという事態に至る。

と書かれており、蛸島彰子女流名人(当時)が当初のキャスティングであったことがわかる。

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必殺シリーズといえば、以前のブログ記事で、森信雄七段との会話で、

  • 澤田真吾六段(当時)は必殺仕事人に出てきたらピッタリ。
  • 「糸谷君も必殺仕事人になれるね」
  • 「大石くんは中村主水のタイプだね。いい仕事人になれる」
  • 「必殺仕事人に全く向いていないのは山崎君」

を紹介した。

しかし、こうやって考えてみると、山崎隆之八段は『新・必殺仕置人』で火野正平さんが演じているようなタイプの仕事人に向いているかもしれない。

それから、森一門では、谷口由紀女流二段が、現在の『必殺仕事人20XX』で和久井映見さんが演じているような仕事人の元締にピッタリな感じがする。

森一門以外では、松尾歩八段、小林裕士七段、中田宏樹八段が必殺仕事人にいても不思議ではない雰囲気。

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新・必殺仕置人 第5回「王手無用」(テレ朝動画 単話料金:30メダル)→https://www.tv-asahi.co.jp/douga/s_shiokinin/5