将棋ペンクラブ大賞最終選考候補作(第31回)

将棋ペンクラブ大賞2次選考結果をお知らせ致します(2018年4月1日から2019年3月31日に発表された作品が対象)。

2次選考は、1次選考で選抜された作品を7名の2次選考委員(技術部門は3名の技術選考委員)が選考します。各2次選考委員の各作品ごとの三段階評価を大賞事務局が集計しポイント化します。各部門、ポイントが上位の作品が最終選考候補作となります。

(順不同、敬称略、青字が筆者。各部門横の数字は、推薦作数→1次選考選抜数→2次選考選抜数)

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〔観戦記部門〕 31作品→17作品→6作品

吉田祐也 第31期竜王戦5組決勝 石田直裕-藤井聡太(読売新聞)

船江恒平 第77期A級順位戦3回戦 稲葉陽-糸谷哲郎(朝日新聞)

白鳥士郎 第3期叡王戦決勝七番勝負第1局  金井恒太―高見泰地(ニコニコニュース)

田中幸道 第89期棋聖戦五番勝負第5局 羽生善治ー豊島将之(産経新聞)

上地隆蔵 第8期女流王座戦挑戦者決定戦 伊藤沙恵-清水市代(日本経済新聞)

大川慎太郎 第29期女流王位戦五番勝負第4局 渡部愛-里見香奈(三社連合)

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〔文芸部門〕 18作品→7作品→5作品

野澤亘伸 『師弟』(光文社)・「師弟 少年時代に交わした二つの約束 畠山鎮七段×斎藤慎太郎王座」(将棋世界)

先崎学 『うつ病九段』(文藝春秋)

長岡裕也 『羽生善治×AI』(宝島社)

北野新太 「最終局」(小説野性時代)

佐川光晴 『駒音高く』(実業之日本社)

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〔技術部門〕 17作品→6作品→4作品

先崎学、中村太地 『先崎学&中村太地 この名局を見よ! 20世紀編』(マイナビ出版)

高野秀行、岡部敬史、さくらはな。『将棋「初段になれるかな」会議』(扶桑社)

西尾明 『コンピュータは将棋をどう変えたか?』(マイナビ出版)

杉本昌隆 『将棋・究極の勝ち方 入玉の極意』(マイナビ出版)

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最終選考会は7月20日(土)に行われます。

最終選考で各部門の大賞、優秀賞が選ばれますが、大賞該当作なし、あるいは優秀賞該当作なしの場合があります。

 

独眼竜観戦記

NHK大河ドラマの視聴率が、内容の善し悪しは別として、過去最低を記録したと先日報じられたが、大河ドラマで歴代最高平均視聴率を記録している『独眼竜政宗』の脚本家、ジェームス三木さんによる観戦記。

将棋マガジン1986年10月号、ジェームス三木さんのジュニア・チャンピオン決定戦決勝〔高田尚平三段-平藤真吾二段〕観戦記「高田君、ブッチ切りで優勝を飾る」より。

 私ごとで恐縮だが、来年の大河ドラマで(独眼竜政宗)の脚本を担当する。戦国時代の資料を漁っていると、囲碁や将棋についてのエピソードが随所に出て来て面白い。

 将棋指南役といえども、太閤秀吉に対して駒を落とすのは無礼であるとし、秀吉のほうが飛車の頭の歩を落とした話は有名だ。これは初手から敵の角頭に飛車が成れるので、圧倒的に有利である。

 伊達政宗の家臣茂庭綱元は、あるとき秀吉との囲碁で、自分の首を賭けた。秀吉は16人の妾の内、香の前というずばぬけた美形を賭けた。腕前は互角だったというから、凄まじい戦いが展開されたろう。結果は綱元が勝ち、香の前を奪って仙台に連れ帰ったそうだ。こういう場合は命を賭けたほうが強いに決まっている。負ければ命を取られる将棋なら、我々だって死にものぐるいになるだろう。でもそんな将棋を指したいとはゆめゆめ思わない。

 さて、ジュニア・チャンピオン戦も大詰めを迎えた。勝てば50万円、負ければ1万円である。命を取られるわけではないが、相当なプレッシャーがかかっているに違いない。しかも関東奨励会と関西奨励会の対決である。

 ところが高田尚平三段も平藤真吾二段もまことに冷静、表面上は闘志も緊張も感じられない。おとなしいというよりも無気力にさえ見える。負けたら命を取るぞといっても、おそらく変化はないだろうと思った。しかしこのふたりが熱戦を勝ちぬいて来たのである。奨励会の頂点に立とうとしているのである。

(中略)

 将棋の駒は、主君から足軽まで厳然と階級差があり、少なくとも民主的ではない。主君さえ生きれば、あとはみんな戦死してもいいのである。家臣は主君のために、どうやって死ぬかを考えるだけである。戦国時代の武将は、おそらく将棋を奨励したことだろう。捕虜にした駒を、自軍に組み入れて使えるのも日本将棋の特徴だが、これも同一民族の乱世によくあったことで抵抗はなかったと思う。しかし城代家老ともいうべき飛車や角まで、敵陣に加わって攻めて来るのはせつない。せめて主君を裏切れるのは金銀以下にしたらどうだろう。将棋連盟が聞いたら目をむきそうなことをつい考えた。

(中略)

 いつだったか将棋雑誌で奨励会員のアンケートを読んだが、世の中は将棋がなくても成り立つので、棋士は謙虚でなくてはならないという答えが多かった。それなら私の専門であるドラマだって同じだろう。

 確かに趣味や芸術やスポーツは、生活に必要なものではない。しかし人間は生活の向上だけのために生きているのではない。生活は人生の一部に過ぎないのである。

 人生があってこそ人間の価値が存在する。人生とは哲学である。生まれて来て死ぬまでの持ち時間を、どうデザインするか、どんな色に染めるかである。将棋には哲学がある。

 私の人生は終盤の寄せに入っているが、奨励会員諸君はまだ序盤の駒組みの最中だと思う。堂々と誇り高い将棋人生を送って貰いたい。

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『独眼竜政宗』は、NHKが1987年1月4日から12月13日に放送した大河ドラマで、平均視聴率39.7%は、大河ドラマの歴代トップ。主演の渡辺謙さんが大ブレイクしたドラマだ。

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「太閤秀吉に対して駒を落とすのは無礼であるとし、秀吉のほうが飛車の頭の歩を落とした話は有名だ。これは初手から敵の角頭に飛車が成れるので、圧倒的に有利である」

これは”太閤将棋”と呼ばれるもので、1999年の将棋ペンクラブ大賞を受賞している鈴木宏彦さん(協力:島朗九段)の『81桝物語』によると、初手から▲2三飛成△3四歩▲2八竜△8四歩▲2四歩で先手の必勝形になり、二枚落ち以上のハンディになるだろうと解説されている。

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伊達政宗の家臣・茂庭綱元は、伊達家と豊臣秀吉との折衝役として京都に派遣されていた。『独眼竜政宗』では村田雄浩さんが演じている。(父親の鬼庭左月役はいかりや長介さん)

元々は茂庭ではなく鬼庭という姓だったが、秀吉が「鬼が庭にいるのは縁起が悪い」という理由で、姓を茂庭に改めさせたという。

史実では、秀吉と綱元がやったのは賭け碁だったが、ドラマでは綱元は将棋の実力が名人級という設定で、賭け将棋に変わっている。将棋が大好きなジェームス三木さんらしい改変だ。

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香の前」のその後のことについては諸説があるが、64歳で亡くなっているとされている。賭け碁が行われたのは香の前が20歳前後の頃のこと。

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仙台市内には茂庭という地名がある。しかし、この茂庭は茂庭綱元とは別筋の河村系茂庭氏が治めていた所。

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「しかし城代家老ともいうべき飛車や角まで、敵陣に加わって攻めて来るのはせつない。せめて主君を裏切れるのは金銀以下にしたらどうだろう。将棋連盟が聞いたら目をむきそうなことをつい考えた」

飛車と角は取られたら相手の持ち駒にはならない(取られたらそれでお終い、盤上から消えるだけ)、というルールになったら、どのような将棋になってしまうのだろう。想像がつかないが、手数がかなり伸びることだけは確かだと思う。

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「確かに趣味や芸術やスポーツは、生活に必要なものではない。しかし人間は生活の向上だけのために生きているのではない。生活は人生の一部に過ぎないのである」

これは名言。