独眼竜観戦記

NHK大河ドラマの視聴率が、内容の善し悪しは別として、過去最低を記録したと先日報じられたが、大河ドラマで歴代最高平均視聴率を記録している『独眼竜政宗』の脚本家、ジェームス三木さんによる観戦記。

将棋マガジン1986年10月号、ジェームス三木さんのジュニア・チャンピオン決定戦決勝〔高田尚平三段-平藤真吾二段〕観戦記「高田君、ブッチ切りで優勝を飾る」より。

 私ごとで恐縮だが、来年の大河ドラマで(独眼竜政宗)の脚本を担当する。戦国時代の資料を漁っていると、囲碁や将棋についてのエピソードが随所に出て来て面白い。

 将棋指南役といえども、太閤秀吉に対して駒を落とすのは無礼であるとし、秀吉のほうが飛車の頭の歩を落とした話は有名だ。これは初手から敵の角頭に飛車が成れるので、圧倒的に有利である。

 伊達政宗の家臣茂庭綱元は、あるとき秀吉との囲碁で、自分の首を賭けた。秀吉は16人の妾の内、香の前というずばぬけた美形を賭けた。腕前は互角だったというから、凄まじい戦いが展開されたろう。結果は綱元が勝ち、香の前を奪って仙台に連れ帰ったそうだ。こういう場合は命を賭けたほうが強いに決まっている。負ければ命を取られる将棋なら、我々だって死にものぐるいになるだろう。でもそんな将棋を指したいとはゆめゆめ思わない。

 さて、ジュニア・チャンピオン戦も大詰めを迎えた。勝てば50万円、負ければ1万円である。命を取られるわけではないが、相当なプレッシャーがかかっているに違いない。しかも関東奨励会と関西奨励会の対決である。

 ところが高田尚平三段も平藤真吾二段もまことに冷静、表面上は闘志も緊張も感じられない。おとなしいというよりも無気力にさえ見える。負けたら命を取るぞといっても、おそらく変化はないだろうと思った。しかしこのふたりが熱戦を勝ちぬいて来たのである。奨励会の頂点に立とうとしているのである。

(中略)

 将棋の駒は、主君から足軽まで厳然と階級差があり、少なくとも民主的ではない。主君さえ生きれば、あとはみんな戦死してもいいのである。家臣は主君のために、どうやって死ぬかを考えるだけである。戦国時代の武将は、おそらく将棋を奨励したことだろう。捕虜にした駒を、自軍に組み入れて使えるのも日本将棋の特徴だが、これも同一民族の乱世によくあったことで抵抗はなかったと思う。しかし城代家老ともいうべき飛車や角まで、敵陣に加わって攻めて来るのはせつない。せめて主君を裏切れるのは金銀以下にしたらどうだろう。将棋連盟が聞いたら目をむきそうなことをつい考えた。

(中略)

 いつだったか将棋雑誌で奨励会員のアンケートを読んだが、世の中は将棋がなくても成り立つので、棋士は謙虚でなくてはならないという答えが多かった。それなら私の専門であるドラマだって同じだろう。

 確かに趣味や芸術やスポーツは、生活に必要なものではない。しかし人間は生活の向上だけのために生きているのではない。生活は人生の一部に過ぎないのである。

 人生があってこそ人間の価値が存在する。人生とは哲学である。生まれて来て死ぬまでの持ち時間を、どうデザインするか、どんな色に染めるかである。将棋には哲学がある。

 私の人生は終盤の寄せに入っているが、奨励会員諸君はまだ序盤の駒組みの最中だと思う。堂々と誇り高い将棋人生を送って貰いたい。

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『独眼竜政宗』は、NHKが1987年1月4日から12月13日に放送した大河ドラマで、平均視聴率39.7%は、大河ドラマの歴代トップ。主演の渡辺謙さんが大ブレイクしたドラマだ。

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「太閤秀吉に対して駒を落とすのは無礼であるとし、秀吉のほうが飛車の頭の歩を落とした話は有名だ。これは初手から敵の角頭に飛車が成れるので、圧倒的に有利である」

これは”太閤将棋”と呼ばれるもので、1999年の将棋ペンクラブ大賞を受賞している鈴木宏彦さん(協力:島朗九段)の『81桝物語』によると、初手から▲2三飛成△3四歩▲2八竜△8四歩▲2四歩で先手の必勝形になり、二枚落ち以上のハンディになるだろうと解説されている。

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伊達政宗の家臣・茂庭綱元は、伊達家と豊臣秀吉との折衝役として京都に派遣されていた。『独眼竜政宗』では村田雄浩さんが演じている。(父親の鬼庭左月役はいかりや長介さん)

元々は茂庭ではなく鬼庭という姓だったが、秀吉が「鬼が庭にいるのは縁起が悪い」という理由で、姓を茂庭に改めさせたという。

史実では、秀吉と綱元がやったのは賭け碁だったが、ドラマでは綱元は将棋の実力が名人級という設定で、賭け将棋に変わっている。将棋が大好きなジェームス三木さんらしい改変だ。

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香の前」のその後のことについては諸説があるが、64歳で亡くなっているとされている。賭け碁が行われたのは香の前が20歳前後の頃のこと。

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仙台市内には茂庭という地名がある。しかし、この茂庭は茂庭綱元とは別筋の河村系茂庭氏が治めていた所。

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「しかし城代家老ともいうべき飛車や角まで、敵陣に加わって攻めて来るのはせつない。せめて主君を裏切れるのは金銀以下にしたらどうだろう。将棋連盟が聞いたら目をむきそうなことをつい考えた」

飛車と角は取られたら相手の持ち駒にはならない(取られたらそれでお終い、盤上から消えるだけ)、というルールになったら、どのような将棋になってしまうのだろう。想像がつかないが、手数がかなり伸びることだけは確かだと思う。

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「確かに趣味や芸術やスポーツは、生活に必要なものではない。しかし人間は生活の向上だけのために生きているのではない。生活は人生の一部に過ぎないのである」

これは名言。

 

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