米長邦雄九段「将棋というのは100mを何秒で走れるかよりもフルマラソンを走り切れるか、ということの方が大事なんです。25歳の時タイトル戦に出たけれど、40歳になっても出られるかい、というね」

将棋世界1989年1月号、特別座談会〔米長邦雄九段・森雞二王位・田中寅彦棋聖・森下卓五段・鈴木宏彦氏〕「89年も激動の1年に」より。

田中 数年前、私なんかの目標であった中原、米長のお二人からタイトルが少しずつ減っていって、戦国時代とか言われるようになりましたよね。それがこの1年は輪をかけるようにタイトル保持者10連敗ということで、最高におもしろくなってきたんじゃないかな、という気がしますね。それと、20代というより独身が一時的にせよタイトル独占を果たしたのは棋界始まって以来と思いますが、年の後半に入って妻帯者が逆襲に転じたという言い方もできると思いますね。

(中略)

米長 谷川にしても高橋、南にしても、皆25~26ぐらいかな、光り輝く歳というのがあるんですよ、その年代の誰かがね。この年代の人達は互いに引っ張られるように輝いちゃった。ここ1、2年はそんな現象でしたね。それでその年代の中でこれからまず1回目のふるい落としがある。これは必ずあるはずなんです。タイトルを奪った取られたという一時的な面よりもその方が20代にとっては深刻で熾烈なんじゃないかな。ライバルというのは同世代の中にいると思うし、その中で誰が「舞台」へ登場できるかという戦いが今始まったばかりという気がしますね。具体的には一人、谷川は抜けたかなと。あと一人か二人、これは20代の場合ですけれどもね。10代は10代で、また40代、30代も別にこれから誰かが世代を代表して絡んでくるでしょうが。だから今は準決勝の将棋を指しているという感じかな。

司会 それがタイトル戦であっても、という感じですか?

米長 そうですね。

(中略)

米長 だからこれから本当に強いのが出てくるんだね、20代は。私も彼らとすいぶんやっているけれど、高橋には4連敗だとか谷川には3連敗だとか、40代VS20代は極端になるケースが多いんですよ。この間の谷川-森戦は珍しいケースでね。波長が合わないというか、戦いそのものが短距離競走なんですね。ところが、将棋というのは100mを何秒で走れるかよりもフルマラソンを走り切れるか、ということの方が大事なんです。25歳の時タイトル戦に出たけれど、40歳になっても出られるかい、というね。こちらの方がより大事なんですよ。つまり今はその時に残れる選手がフルイにかけられている。数字的にいっても、10年後、今の20代の有望株5、6人がそのままトップにいて、しかも羽生、森内もいる、なんてことはありえない訳で、必ず淘汰がある。

(以下略)

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タイトル戦において、タイトル保持者10連敗(挑戦者側が10回連続でタイトル奪取)という時代があった。

羽生善治五段(当時)をはじめとする羽生世代の棋士がタイトルを取りはじめる少し前の頃。

昨年から今年にかけての傾向とやや似ている。

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「将棋というのは100mを何秒で走れるかよりもフルマラソンを走り切れるか、ということの方が大事なんです。25歳の時タイトル戦に出たけれど、40歳になっても出られるかい、というね」

羽生善治九段の「才能とは続けられること」という言葉があるが、まさしくこのようなことにも結びついているのだと思う。