「棋聖戦のジンクスは生きていた」

将棋マガジン1992年10月号、「将棋おもしろ雑学事典」より。

棋聖戦のジンクスは生きていた

 勝負の世界では、ジャンルを問わず「追う者の強み」というのがある。将棋界も例にもれず。大逆転でタイトル奪取もしばしば起こる。

 なかでも棋聖戦五番勝負には、それを象徴するようなジンクスがある。一方が2連勝した後に2連敗すると、最終局は必ず追い込んだ側が勝つのだ。その例は過去に5回あり、うち4回は中原が敗れている。

 11期の山田道美、21期の有吉道夫、42期の森安秀光、56期の屋敷伸之の4回で、山田を除く3人は初タイトルを大逆転で中原棋聖から奪い、感激もひとしおだった。

(中略)

 中原は塚田泰明との王座戦でも2連勝の後3連敗してタイトルを失っている。あの大名人にして、一度敵に傾いた勝負の流れを再び引き戻すのは難しいということか?

 なお棋聖戦におけるもう1回の2連勝3連敗は23期の内藤・米長戦(内藤勝ち)が記録している。

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棋聖戦五番勝負の「一方が2連勝した後に2連敗すると、最終局は必ず追い込んだ側が勝つ」。

このジンクスは現在も続いているのだろうか。

1993年以降の棋聖戦について調べてみた。

一方が2連勝した後に2連敗したケースは次の通り。(赤い文字の棋士が2連勝した後に2連敗)

1993年度後期 羽生善治棋聖(防衛)◯谷川浩司王将●

2002年 郷田真隆棋聖●佐藤康光王将(奪取)◯

2008年 佐藤康光棋聖●羽生善治二冠(奪取)◯

2002年と2008年はここで述べられている棋聖戦のジンクス通り。

1993年度後期は、羽生棋聖がジンクスを破った形。

だが、この1993年度後期の五番勝負は、羽生棋聖が2連勝後の第3局、千日手が2回続いて、第3局は別の日に行われることになるという非常に珍しい流れとなった。

千日手が一日に二度続いたタイトル戦〔羽生善治棋聖-谷川浩司王将戦〕

第3局、第4局は谷川王将が勝って追い上げたが、第5局は羽生棋聖が勝って防衛を決めている。

この時は、記録の上では五番勝負だが、物理的・日程的には六番勝負。

この棋聖戦のジンクス「一方が2連勝した後に2連敗すると、最終局は必ず追い込んだ側が勝つ」は、間に日程をあらためた千日手指し直し局が含まれなかった場合、という但し書き付きで、現在も生きていると考えることができるだろう。

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2000年以降の他棋戦の五番勝負を見てみると、「一方が2連勝した後に2連敗」したケースは次の通り。(赤い文字の棋士が2連勝した後に2連敗)

2002年度棋王戦 羽生善治棋王●-丸山忠久九段(奪取)◯

2008年度棋王戦 佐藤康光棋王●-久保利明九段(奪取)◯

2014年王座戦 羽生善治王座(防衛)◯-豊島将之七段●

2018年王座戦 中村太地王座●-斎藤慎太郎七段(奪取)◯

棋聖戦のジンクスは◯◯●●●だが、2000年以降の王座戦・棋王戦では、◯◯●●◯の方が多い。

やはり、◯◯●●●は、棋聖戦特有のジンクスと言えそうだ。