将棋マガジン1993年2月号、読者の投稿欄「コマゴマ掲示板」より。
小学1年の息子は、将棋が大好き。私が働いているので、今年の春休みは、保育園卒園後の4月初めに預かってくれるところをさがさなければなりませんでした。苦肉の策で保育園代わりに行かせてしまった八王子将棋クラブの席主さんとお友達が気に入り、居ついてしまいました。
そして、11月3日には、羽生王座・棋王にお会いできて大喜び。4月に15級からスタートし、11月には初段になれました。
息子いわく「プロになりてえ。棋力は羽生と谷川が合体して、しゃべりは先崎」だそうです。
「容姿は郷田」も加えるよう、母の遺伝的責任保証の上でアドバイス。すでに竜王戦優勝賞金3,200万円の使い道も決めています。ちなみに私にはベンツがプレゼントされます。親バカを楽しんでいます。
追伸 私は前述の理由で八王子将棋クラブへ息子を送り込みましたが、何せあの羽生王座・棋王の出た将棋クラブですから、小学生のチビッ子も多く、その子達が強いです。
〔編集部より〕
う~ん、本当に親子で楽しんでいる感じがします。それにしても、将来は羽生+谷川+先崎とは、なかなかスゴイ。
棋界のスーパースターを目指してがんばってください。
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1992年度に小学1年生だったこと、八王子将棋クラブで小学1年生にもかかわらず初段だったことと、投稿された方のお名前が、元奨励会三段だった故・天野貴元さんのお母様と同姓同名であることから、天野さんのお母様からの投稿と考えて間違いなさそうだ。
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編集部からのコメントの通り、本当に楽しい雰囲気が伝わってくる。
皮算用も最高だ。
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天野貴元さんは石田和雄九段門下。
年齢規定での奨励会退会後、舌癌と診断されたが、病気と闘いながら将棋普及やアマ大会出場、奨励会三段リーグ編入試験など、天野さんは頑張った。
その姿は、多くの人に感動を与えた。
2014年には著書『オール・イン ~実録・奨励会三段リーグ』が、将棋ペンクラブ大賞文芸部門大賞を受賞している。
2015年10月、天野さんは30歳で亡くなる。
→アマチュア棋士の天野貴元さん死去 闘病中も大会出場(朝日新聞)
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「棋界のスーパースターを目指してがんばってください」
プロ棋士になることはできなかったが、奨励会退会後の天野さんは普及面などでのスーパースターだったと言っても過言ではないと思う。
社会人団体リーグ戦には、天野さんが率いていた「天野チルドレン」チームが出場しており、昨年は1チーム増えて全部で5チームとなっている(天野チルドレン1~5)。
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天野さんのお母様は、今年の2月に朝日新聞の声欄に「余命を全力で将棋に注いだ息子」を投稿されている。
村)今日の朝刊「声」欄に、元奨励会三段の天野貴元さんのお母様の投稿が載っています→「1年後にがんの遠隔転移で余命は半年から1年と告げられた」「『人間ってすごい。生きるってこういうことなんだ』。息子が将棋に対峙し、普及という自分の使命に忠実に生きる様に畏敬の念さえ感じた」
— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) February 4, 2020
天野さんは、亡くなる直前にご両親に「生んでくれてありがとう。30まで生きて良かったよ」と話したという。
お母様の1993年の将棋マガジンへの投稿を読むと、お母様の温かさが感じられて、更に涙が出てくる。
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