将棋マガジン1993年11月号、羽生善治五冠(当時)の「今月のハブの眼」より。
8月22日に行われたJT日本シリーズ、加藤一二三九段との一戦から。
日本シリーズは全国各地を転戦して行くトーナメント戦で、公開対局で行われます。また、持ち時間が10分という超早指し戦です。
本局は岡山で行われました。
3図はその序盤戦。
何とも風変わりな出だしですが、どうしてこうなったかというと、初手より▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲同角成△同桂▲2五歩△2二飛の進展でこうなったのです。
途中、△3三角は珍しい一手で、私は新手だと思っていたのですが、岡山出身で、本局も観戦に来ていた有森六段が以前、指したことがあるようです。やはり、人間の発想というのは似たような感じになってしまうのでしょうか。
さて、3図の局面ですが、まず▲6五角が目に浮かびますが、その時△4五桂が成立します。
▲4三角成なら△5七桂不成で、▲6八金なら△5五角▲7七桂△5七桂成で、どちらの変化も後手がうまくいっています。
実戦は▲4八銀と自重し、△6二玉▲6八玉△7二玉で一局の将棋となりました。このような展開になるならば、後手番の一つの立派な戦法と言える気がします。
この後も気分良く駒を進めることが出来、勝利しました。
(以下略)
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後に、窪田義行七段が多く採用して有名になった4手目△3三角戦法。
有森浩三七段が創始者なのか、あるいはもっと前から指されていたものなのかは分からないが、どちらにしても、羽生善治五冠(当時)が無の状態から考え出した戦法でもあることになる。
「やはり、人間の発想というのは似たような感じになってしまうのでしょうか」と羽生五冠は書いているけれども、なかなか発想するのが難しい手順のような感じがする。
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