佐藤康光竜王(当時)「あっ、あれ、覚えていないですね。忘れっぽい性格なんです(笑)」

将棋世界1994年2月号、「佐藤康光新竜王に聞く」より。〔インタビュー/1993.12.11 AM7:30〕

竜王戦第6局、竜王位を獲得した直後の打ち上げにて。将棋世界1994年2月号より、撮影は弦巻勝さん。

今回の七番勝負に臨む前の手応え、自信はいかがでしたか。

佐藤「調子は良かったんで、ある程度はやれるんじゃないかと思ってました。研究会も1年ほど休みになっていたので新鮮な気持ちで楽しみでした」

4局終わって、2勝2敗となりましたが、始まる前と比べての感じ、1年ぶりの羽生将棋はどうでした。

佐藤「2局目の悪い将棋を勝ったのが大きかったです。羽生さんの将棋はとくに変わったとは思いませんが、以前よりもさらに隙がなくなったような印象でした」

勝ち越したときにはいけそうだなという感触はありましたか。

佐藤「1局、1局、自分の将棋が指せればと思いました。ただ、羽生さんは、後半調子を落とした感じですね。僕も、勝ったり負けたりであまり威張れた成績ではなかったのですが」

昨日の将棋ですが、勝ちを意識したのはどの辺りですか。

佐藤「▲2二とと引いた辺りです」

そのとき、盤面以外のことを何か考えました。

佐藤「特にないです」

羽生さんの投了の言葉は覚えていますか。

佐藤「あっ、あれ、覚えていないですね。忘れっぽい性格なんです(笑)」(注・「負けました」とはっきりと言った)

一晩明けていかがですか。昨晩どなたかに連絡しました。

佐藤「まだ実感が湧きませんね。これから少しずつ喜びが湧き上がってくるんじゃないかと思います。連絡ですか。人に勧められて、両親にはしました」

仕事のない日の一日の生活パターンを教えてください。

佐藤「特にパターンといったものはないんですが、雑誌を読んだり、棋譜を並べたりしています。テレビを置いていないんで。今は忙しいのでいいのですが、余裕が出てきたときの生活の仕方が、課題だと思っています」

最近は研究会も中断されているそうですが、普段の勉強方法を聞かせてください。

佐藤「自分で棋譜を並べたり、連盟に対局観戦に行ったりですね」

米長名人が『無双』『図巧』を解けばと言った話は有名ですが、詰将棋はよく解かれるほうですか。

佐藤「そうでもないです。『図巧』は奨励会時代に半分ぐらい解きましたが、『無双』はやっていません」

普段、将棋から離れての気晴らしなどはありますか。

佐藤「今は忙しいので、趣味の時間とかがとれないのですが、ゴルフには行きます。やる前は常に100を切る自信はあるんですが、なかなかうまくいきませんね。110を切るかなという程度です。将棋以外は楽観的なんですかね」

今、番勝負を戦ってみたい棋士は。

佐藤「米長先生と中原先生です」

米長将棋と中原将棋はどう思われます。

佐藤「米長先生は、終盤の切れ味と独特の感覚、粘り強さ。中原先生は、雄大という印象が強いですね」

羽生将棋と森内将棋は。

佐藤「羽生さんは読みが正確、大局観がしっかりしています。森内さんは勝負に辛いです。今の若手は全体に勝負に辛いと思いますが、中でもという印象です」

気になっている後輩棋士はいますか。

佐藤「特に個人的にはいませんが、四段になってから7年目で後輩が30人ぐらいできているので大変だなとは思っています」

棋士になってから一番悔しかった勝負と嬉しかった勝負(昨日の将棋を除いて)を教えてください。

佐藤「悔しかったのは、初めての竜王戦で先崎さんに初手▲7六歩に△3二金と指されて負けた将棋です。痛かったです。嬉しかったのは、順位戦でB2に昇級を決めた小野さん(故・小野敦生六段)との将棋です」

最後にこれからの1年間の目標を聞かせてください。

「あと一つぐらいタイトル戦に出たいですね。それと今年は難しいですが、来年は順位戦で昇級したいですね。

竜王位獲得の翌朝。天童市の龍王橋にて。近代将棋1994年2月号より、撮影は炬口勝弘さん。

将棋世界1994年2月号より、撮影は弦巻勝さん。

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「あっ、あれ、覚えていないですね。忘れっぽい性格なんです(笑)」

終局の瞬間およびその直後は、極度の集中から開放されたばかりの状態なので、ほとんどのことを覚えていない方が自然かもしれない。

なおかつ、初めてのタイトル獲得が決まった瞬間でもあるので、より一層、その傾向が強まったとも考えられる。

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「雑誌を読んだり、棋譜を並べたりしています。テレビを置いていないんで。今は忙しいのでいいのですが、余裕が出てきたときの生活の仕方が、課題だと思っています」

将棋関係以外の雑誌を読むのにそれほど時間はかからないわけで、一日のほとんどが棋譜並べや研究だったのだと思う。

佐藤康光竜王(当時)「休み?休みなんか要るんですか。だって勉強は労働じゃないでしょう」

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「羽生さんは読みが正確、大局観がしっかりしています。森内さんは勝負に辛いです。今の若手は全体に勝負に辛いと思いますが、中でもという印象です」

将棋世界の同じ号、羽生善治四冠(当時)の自戦記〔王将戦 対森内俊之六段〕「矢倉穴熊に敗れる」で、羽生四冠は森内六段(当時)について次のように書いている。

 森内六段の棋風は攻め気が強く、粘り強くて、秒読みを苦にしないという、スキのない棋風です。最近活躍する若手棋士全般の特徴ですが特に優れているのです。段位も六段ですし、タイトル戦の登場もまだですが、プロ間では高い実力の評価を得ています。

佐藤竜王、羽生四冠とも、表現は異なるが、森内六段の棋風は、当時の若手棋士全般が持つ特徴が更にパワーアップされたものである、ということで共通している。

見方を変えると、当時の若手棋士全般の特徴は「勝負に辛くて、攻め気が強く、粘り強くて、秒読みを苦にせずスキがない」と覚えておけば試験に出ても大丈夫だ。

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「悔しかったのは、初めての竜王戦で先崎さんに初手▲7六歩に△3二金と指されて負けた将棋です。痛かったです」

これは、第1期竜王戦6組決勝でのこと。

1990年に先崎学四段(当時)が、この時のことについて書いている。

振らぬなら、振らせてみよう(前編)

振らぬなら、振らせてみよう(後編)

 

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