将棋マガジン1996年4月号の「羽生、七冠達成を見て」、将棋世界1996年4月号の「七冠フィーバーにひとこと」より。
二上達也九段(日本将棋連盟会長・羽生の師匠)
すごい記録ですね。本人も予期しなかったのではないでしょうか。昨年の失敗から、ひとまわり器が大きくなったようです。責任がなお重くなってきますが、勝負の世界ですからバランスを保ち精進してほしい。また、若手棋士は「目標」として挑んでもらいたい。
谷川九段へ
昨年の防衛戦は見事でしたが、震災の余波が出たのではと心配しています。これからはまた違った「谷川流」を見せてくれるものと期待しています。(将棋マガジン)
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私としては現役ではないですし、また立場もあり言いにくいのですが、全冠は例があっても、”7”という数字は語感がいいのでここまでフィーバーしてると思います。
七冠達成には奪還と防衛の面があり両方達成したことが評価できると思います。当人の強さばかりが喧伝されていますが、本当の評価はこれからの当人のあり方にかかってくるのではないでしょうか。勝負の流れ、運という面もありますね。(将棋世界)
中原誠永世十段(五冠王経験者)
すごい記録だと思います。私も六冠に挑戦した事がありましたが、タイトルをたくさん取るのは、棋力・体力・精神力が充実していないと達成できない事だと思います。特にスケジュール的にもきついようですが、羽生さんは華奢にみえても随分体力があるのだなと思いました。
これからは、他の棋士も含めて、「打倒羽生」を目指してやっていきたいですね。(将棋マガジン)
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僕自信も全冠に挑んだ事がありますが、スケジュールや体力的に非常に大変なものですから、七冠は不可能な記録ではないかと思っていました。それだけに空前絶後の記録ではないですか。
羽生さんはフルセットにいってないので助かってるんじゃないかな。フルセットまでいくとバテてきますし、カド番になると精神的にも応えてきますしね。
後に続く若手もいるし、実力的にもそう差があるわけではないので、これからもいい勝負をやると思います。僕自身もタイトル戦では一度もやってないので挑戦するよう頑張りたいです。(将棋世界)
米長邦雄永世棋聖(四冠王経験者)
七冠制覇、とてつもない事である。まずはおめでとう。
羽生将棋の魅力はセンスの良さで、余人に真似できない強さの秘密でもある。なによりも人間そのものに華がある。
木村義雄以来、約50年ぶりの大スターだ。私が果たし得なかった夢の「強さと華」の双方を持つ男の出現に拍手、拍手。
羽生善治と谷川浩司の二人に会えただけでもこの世界に入って幸せだとつくづく思う。(将棋マガジン)
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まずはおめでとうございます。七冠全てを制覇というのは信じ難いことであって、その偉業を成し遂げられたのは立派の一語に尽きる。羽生将棋の一番の魅力、強さの秘密はそのセンスの良さにある。その抜群のセンスがどこで培われたものなのか、天性のものなのかは分からないが、それが他のプロとの決定的な差でもある。
若い俊英たちもこのまま黙ってはおるまい。しかし、私も幸いまだ52歳。人生の目標ができた。勝負はこれからです。(将棋世界)
畠田理恵さん(婚約者)
とてもうれしいです。
ただ、今回は高熱をおしての対局でしたので、勝敗よりも身体の方が心配でなりませんでした。
大変な中、本当におつかれさまでした。(将棋マガジン)
加藤一二三九段
四冠、五冠でも偉業であり大変なのに史上初めての七冠は素晴らしいと思います。
ただ私が常々思っていることは、例えばモーツアルトや素晴らしい絵画、映画などは誰にでもその内容が理解できるのに対して、将棋の場合、自分で実際に指したりしてある程度経験してみないとその本当の面白さは分からないのではないか。今回の羽生フィーバーはそれはそれでいいことだが、ある程度の予備知識がないと我々棋士の本当の姿はわかっていただけないものではないかと考えています。(将棋世界)
森雞二九段
私が負かしにいきます。待っていてください。(将棋世界)
森下卓八段
やはりとてつもない記録だと思います。達成した原因ですがこれは私にはよくわからないのですが、羽生さんの先天的な才能や天分なのか、あるいは羽生さんの将棋の打ち込み方や努力が他の棋士より上回っているのか、どちらかだと思います。
先天的なものでしたら、これは脱帽するしかありません。しかし、後天的な努力や情熱で、私も含めて他の棋士が負けているのでしたら、これは恥ずかしいことなので、追いつけるように励まなくてはなりません。それにしても、とにかくすごいことだと思います。(将棋世界)
佐藤康光七段
空前絶後の記録なので、ただただ脱帽ですね。私としては止めるチャンスがあったわけで、残念な気もします。七冠達成の場面は衛星放送で見ていましたが、いよいよその時が来たか、と感じました。(将棋世界)
深浦康市五段
やっぱりすごい記録だと思います。と同時に自分も含めて他の棋士がふがいないと思います。
これからは誰が羽生さんを倒すかということに焦点がいくと思いますが、羽生さんの強さを知らない人になるのではないでしょうか。それは下の世代の者か、今の棋士でも羽生さんの強さをプレッシャーと受けとめない者か、そのどちらかだと思います。(将棋世界)
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「当人の強さばかりが喧伝されていますが、本当の評価はこれからの当人のあり方にかかってくるのではないでしょうか。勝負の流れ、運という面もありますね」
二上達也九段の師匠ならではの言葉。
羽生善治九段は、七冠達成後も盤上をはじめとして全ての面で、この二上九段の期待を大きく上回る活躍を続けている。
谷川浩司九段へもメッセージを送っているのが二上九段らしい心遣い。
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「僕自信も全冠に挑んだ事がありますが、スケジュールや体力的に非常に大変なものですから、七冠は不可能な記録ではないかと思っていました。それだけに空前絶後の記録ではないですか」
「羽生さんはフルセットにいってないので助かってるんじゃないかな。フルセットまでいくとバテてきますし、カド番になると精神的にも応えてきますしね」
五冠王も経験した中原誠十六世名人にしか書けない、タイトル戦の現場感覚が溢れる内容。
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「羽生善治と谷川浩司の二人に会えただけでもこの世界に入って幸せだとつくづく思う」
米長邦雄永世棋聖らしい一言。
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「今回の羽生フィーバーはそれはそれでいいことだが、ある程度の予備知識がないと我々棋士の本当の姿はわかっていただけないものではないかと考えています」
この加藤一二三九段のコメントはその通りで、フィーバーはいつかは静まるもの。
棋士や将棋の魅力が幅広く伝わるようになったのは、2010年前後以降、『3月のライオン』のようなアニメや、将棋連盟のネット中継、ニコ生、AbemaTVなどでの中継、Twitter・YoutubeなどのSNSでの棋士からの発信、などが大きな力を発揮したと思う。
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「私が負かしにいきます。待っていてください」
名前を見なくても、森雞二九段の言葉だと分かる。
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「しかし、後天的な努力や情熱で、私も含めて他の棋士が負けているのでしたら、これは恥ずかしいことなので、追いつけるように励まなくてはなりません」
Wikipediaの森下卓九段の項に、「羽生七冠誕生の際に周囲からは賞賛する声が多い中で、森下は『棋士全員にとって屈辱です。』と発言し、一人気概を見せていた」と書かれている。
「棋士全員にとって屈辱です」という言葉は、将棋世界、将棋マガジン、近代将棋には載っていないので、週刊将棋あるいは他の媒体で報じられたのかもしれない。(森下八段は、七冠誕生となった王将戦第4局の現地大盤解説を担当していた)。
とはいえ、森下八段(当時)が述べていることは、ほぼ同様の意味だ。
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「やっぱりすごい記録だと思います。と同時に自分も含めて他の棋士がふがいないと思います」
深浦康市五段(当時)のコメントは、兄弟子の森下八段と同様の趣旨。
「これからは誰が羽生さんを倒すかということに焦点がいくと思いますが、羽生さんの強さを知らない人になるのではないでしょうか。それは下の世代の者か、今の棋士でも羽生さんの強さをプレッシャーと受けとめない者か、そのどちらかだと思います」
この5ヵ月後、三浦弘行五段(当時)が、羽生七冠から棋聖位を奪取することになる。
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「空前絶後の記録なので、ただただ脱帽ですね。私としては止めるチャンスがあったわけで、残念な気もします。七冠達成の場面は衛星放送で見ていましたが、いよいよその時が来たか、と感じました」
佐藤康光七段(当時)は、王将戦七番勝負の直前の竜王戦七番勝負で戦っているので、「私としては止めるチャンスがあったわけで、残念な気もします」という気持ちは大きかったと思う。
「いよいよその時が来たか」には様々な思いがあったことだろう。
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「今回は高熱をおしての対局でしたので、勝敗よりも身体の方が心配でなりませんでした。大変な中、本当におつかれさまでした」
羽生五冠(当時)が畠田理恵さんと知り合ってから六冠となり、六冠を1年以上保持しつづけ、そして七冠になり、結婚へ。
畠田理恵さんの存在自体が、羽生五冠、六冠、七冠にとってプラスに働いたのは間違いないことだと思う。