棋士の結婚1997

棋士の結婚ラッシュの年の日常を描く。

近代将棋1997年12月号、中井広恵女流五段(当時)の「棋士たちのトレンディドラマ」より。

 今年は昨年に続き、結婚ラッシュの年となった。

昔は、先輩達が、

「まだ急ぐことはない。早まるな」

と忠告していたようだが、最近結婚した棋士達は、皆、

「早く所帯を持った方がいい」

と勧めているようで、そのせいか結婚年齢もグッと下がってきているよう。

(中略)

森下八段の速攻も皆をアッと言わせた。さぞかし悔しがっている女性ファンも大勢いることだろう。

森下八段には、お仕事でご一緒した時など、いろいろなお話を伺っているが、その中でも特に印象に残っているのが、コレ。

「十代から二十代前半までは、いいなと思う人がいても、もっといい手があるんじゃないかと思ってしまって、決断できないんですよ。選択手がいっぱいあって、自分の方が有利な局面だと思っているんです。それが、二十代半ばになると、なかなか勝負手が見つからなくなり、しまいには最善手を指しても勝てない局面になっているんですね」

将棋用語を交えて恋愛論を語るのが森下八段らしいが、でも自論に反して麻衣子さんという素敵な女性をゲットしたのだから、森下流の粘りが功を奏したというところでしょうか? 末長くお幸せに。

私と奨励会同期の勝又四段も、知子さんとめでたくゴールイン。

彼は奨励会時代から「何か美味しいものはありませんか」と言ってはよく我が家へ遊びに来ていた。そういう時に限って、何故か北海道から魚介類が届いていて「アイツは鼻が利くヤツだ」と主人が感心していた。

それがいつからかパッタリ音沙汰が無くなったので「まさか彼女でも出来たの?」と尋ねると、実はそうなんですと言って彼女を紹介してくれた。

とても可愛らしい女性で「知ちゃん」と呼ぶ勝又君のニヤけた顔。メロメロの顔を見て主人が一言、「先は見えている」。いいじゃないねぇ。尻に引かれても…?!  ともかくおめでとうございます。

でも、私が何といっても一番おどろいたのは、鈴木大介五段の婚約だ。

その話をきいたのは長野将棋まつりへ向かう電車の中だった。ちょうど森下八段もご一緒だったので、婚約者の麻衣子さんへのお話を伺っていたら、急に鈴木五段が、

「あのー……もうすぐ僕からも怪文書届くと思います」と言うのだ。

最初、何の事を言っているのかわからず、いろいろ尋ねたところ、実は婚約しましたと言う。それだけでもビックリしたのに、相手は私のよく知っている人間だと言うので腰が抜けそうになった。

高橋美和さんは連盟の将棋教室にも通っていたこともあって、棋士や女流棋士の友人も多い。ミーちゃんと呼ばれていて、明るくて、気立てのいい女性なので、狙っていた人も少なくなかった筈。

その競争の激しい中、勝ち抜いて彼女を射止めたのだから凄い。しかも、つき合ってわずか数ヵ月で婚約という光速の寄せまで披露して。

もう鈴木五段は彼女のことを話したくて話したくて仕方がないという感じだった。

挙式は来春ということで少し先だが、その間に少しでも棋士の事を勉強したいというミーちゃん。

棋士の奥さんは大変だと思いますけど、皆さん頑張って下さいね。最後にもう一度、お幸せにーー!!

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この号の別の記事では、森下八段が婚約中の麻衣子さんのことを”まいまい”と呼んでいたと書かれている。

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鈴木大介八段の結婚披露宴の模様は、先崎学八段が1998年の将棋世界に書いている。

鈴木大介八段の涙

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ちなみに、

中井広恵女流六段と植山悦行七段の結婚式の写真。(1990年将棋マガジンより)

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