栄ちゃん救出作戦

スパイ大作戦」か「サンダーバード」を観ているような気分になれる。

近代将棋2004年9月号、渡辺明五段(当時)の「20歳新鋭棋士 トップを狙え!」、第12期銀河戦総括篇 栄ちゃん救出作戦より。

 今月は第12期銀河戦のハイライトを解説します。

(中略)

①対飯島栄治四段戦

 1局目は飯島四段(以下栄ちゃん)との対局でした。栄ちゃんとは普段から練習将棋をよく指します。この時も対局の前日にVS(1対1の練習方式)で3局指しました。本番で矢倉を予定していたので練習将棋では横歩取りなどを指してあえて矢倉は指しませんでした。これも作戦のうちです(笑)。

 予想通りの展開からリードを奪って第1図。

(中略)

△6四歩が継続手で後手快勝となりました。幸先の良いスタート。

 局後、栄ちゃんから「残りを全部勝って下さい…!」とメールが。栄ちゃんは2人抜きなので僕が次に勝って2人抜きになった場合、僕が最後まで勝ち抜いて最終勝ち抜き者にならないと本戦に出られないのです。2勝なんだからあきらめなさい! 2勝で本戦に出ようなんて甘い! 栄ちゃんは過去に銀河戦で5人抜きをしながら本戦に出られなかった不運があります。5人抜きで出られなくて2人抜きで本戦に行けることもあるんですね。

②対真田圭一六段戦

 2局目は真田六段との一戦でした。

(中略)

この直後に勝負手が成功し、2人抜き。これで僕が全部勝たないと栄ちゃんが本戦に行けなくなりました。別に自分が本戦に行ければいいんですけど。

③対小野修一八段戦

 3局目は小野八段との対局。

(中略)

以下はうまく寄せることができて3人抜きです。

④対南芳一九段戦

 4局目は南九段との対局。この将棋に勝てば4人抜きとなり本戦出場が決定します。

(中略)

 これで本戦出場が決定しました。ひとまず自分の本戦行きが確定したので一安心です。あとは栄ちゃんを救う戦いとなりました。こういうときにその救われる人の人徳が出ると言われていますね。

⑤対神谷広志七段戦

 5局目は神谷七段との対局です。

(中略)

△4四歩が印象に残る手でした。これで5人抜きです。栄ちゃん救出まであと2勝となりましたが、大変な相手なのでこの時点で意識はしていませんでした。1勝する度に栄ちゃんからメールが来たのは言うまでもありませんね。

⑥対郷田真隆九段戦

 6局目は郷田九段との対局です。

(中略)

一旦受けに回って安全を確保しました。最後は即詰みに討ち取って6人抜き。

 最初はどうでもよかった栄ちゃん救出作戦も残り1勝となりました。あと1勝となってから栄ちゃんと会う度に「先生、頼みますよ」と言われたような気がします。

 最終戦の前日に朝日オープン五番勝負第5局を現地に観戦に行きました。電車ではなくて栄ちゃんの車でです。帰り際に「明日、本当に頼みます。見に行くかもしれないんで。では」そこまでプレッシャー掛けなくてもいいじゃん(苦笑)。

⑦対青野照市九段戦

 最後の相手は青野九段でした。

(中略)

 優勢になってからは慎重に指しました。そして第10図までで勝ち。7人抜きで最終勝ち抜き者となることができました。栄ちゃんは最多勝ち抜き者として本戦に出られることになりました。めでたし。めでたし。

 後日、栄ちゃんに焼肉をごちそうになりました。そんな栄ちゃんですが、なんと本戦トーナメント1回戦で羽生王座と対戦することになりました。羽生王座と対戦するのは初めてとあって、喜んでいました。熱戦を期待します。

 自分も本戦で少しでも上に行けるように頑張ります。

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この年の朝日オープン五番勝負第5局(深浦-羽生戦)は、伊豆の修善寺で行われている。

東京からはかなりの距離があるので、飯島四段(当時)の気合がよく感じ取れる。

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飯島栄治七段の飯島流引き角戦法は2009年度の升田幸三賞を受賞している。

ネット対局をしていると、飯島流引き角戦法をやってくる人が結構多い。

これをやられる気配があると、私も石田流にはせず▲6六銀型三間飛車で対抗することにしている。

アマチュアに好んで指される戦法が新たに出現したことは、飯島七段の大きな功績だと思う。