名人戦第7局、振り駒と戦型を予想する

今日と明日は名人戦第7局。

いつもは昼食予想だけだが、今日は、振り駒予想と戦型予想を科学的に行ってみたい。

〔振り駒予想〕

タイトル戦七番勝負第7局での、羽生名人、森内九段の振り駒と勝敗の結果は次の通り。(2000年以降)

羽生名人

2009年名人戦 先手 ○

2009年王将戦 後手 ○

2008年竜王戦 先手 ●

2008年王位戦 先手 ●

2007年王位戦 後手 ●

2007年王将戦 先手 ○

2006年王将戦 後手 ○

2005年名人戦 後手 ●

2002年竜王戦 後手 ○

2000年竜王戦 後手 ●

先手が4局で2勝2敗。

後手が6局で3勝3敗。

森内九段

2007年名人戦 後手 ○

2005年名人戦 先手 ○

2004年竜王戦 先手 ●

先手が2局で1勝1敗。

後手が1局で1勝0敗。

しかし、これでは予想ができない。さすがに確率の世界。

振り駒も勝率もほとんど五分五分。

振り駒は、やってみなければ分からない、が結論。

とは言え、羽生名人の普段の勝率から見ると、第7局の勝率は決して良いとは言えない。

〔戦形予想〕

今回の戦形予想は、15年前の田中寅彦九段理論に基づいてみたい。

1996年刊行の田中寅彦九段「羽生必敗の法則」より。

 私たちプロ棋士も、地方のファンにも将棋を楽しんでもらうために全国を旅する。特にタイトル戦のような重要な棋戦ほど、全国の由緒ある旅館が戦いの場となる。それだけに、タイトルを取った場所は一生思い出に残るであろうし、一度悔やみきれない大失着をやらかしてしまった場所を訪れると、その悔しさが再び脳裏によみがえるものである。

 そんな習性を持つプロ棋士が、以前に作戦負けを喫したり、悔いの残る手を指してしまった苦い記憶のある場所で再び対局する場合、どのような作戦をとるのであろうか。

 棋士としての心理を考えると、ジンクスを嫌い、まったく以前の変化を採用しない形が一つ。そしてもう一つは、再び以前と同形の戦い方を選ぶパターンであろう。

 特に棋士の習性として、以前採用した形が自分なりに研究した手であるほど、その後の研究の成果を見せるべく再び同じ手順を指そうとする。そして、戦いの途中で以前の手順から変化し、新趣向を試みようとする。

 結論から言えば、羽生は完全に後者である。それは執念深いという印象すら与える。何よりの証拠に、羽生は一度タイトル戦で訪れた旅館に、その後再び対局で訪れた場合、ほとんど前と同じ作戦を採用しているのだ。

 例えば昨年の森下八段との名人戦第4局、羽生は先手森下の初手7六歩に対して俗に悪形とされる3二金を指した。森下に対して心理戦を挑んだと評判を呼んだのだが、実はまったくこれを同じ「二手目3二金」を、同じ会場の愛知県西浦温泉「銀波荘」で以前指していたのだ。

 この舞台は1994年の1月に行われた棋聖戦の第4局。相手は当時の谷川竜王だった。

(中略)

 羽生が谷川との大一番でこの手を指したのは、新定跡を求めているからであり、とくに序盤戦を重視し、工夫を凝らすようになっているからにほかならないのだが、それでも控室にいた人々は意表を突かれた。

 結果的に谷川との一局はわずか49手で羽生が惨敗を喫した。一度失敗したわけだが、羽生自身がかなりこの変化を研究していたはずだ。それだけに、もう一度いずれこの「二手目3二金」を試してみようと思っていたに違いない。それが森下との一局だった。

 そして、なぜ名人戦のこの局に、もう一度試してみようとしたのか推理すれば、それは谷川戦と同じ場所で戦ったという要素が大きい。タイトル戦の前日というのは、明日はどの戦型で戦おうか思いを巡らすものだが、羽生は以前この場所に来たとき、新手もむなしく不名誉な惨敗を喫したことを思い出した。そこで、その悔しい思いをはらす絶好の機会とばかりに、森下に挑んだに違いないのだ。

 実は、羽生はこの「二手目3二金」を試みたことが森下戦(谷川戦)の前に一度ある。羽生が名人位を戴冠した米長戦がそれだったことを、羽生は名人戦自戦記に記しているが、この名人戦第2局が行われた場所も愛知県西浦温泉「銀波荘」だったのである。これはほとんど意図的としか思えない。

 こうした視点で過去の羽生の棋譜を見てみると、同様のケースが多い。

(中略)

 やはり羽生は、ふだん見せる表情こそさわやかな好青年だが、裏では実に執念深く、”やられたらやり返す”精神構造の持ち主なのだ。

 今後、タイトル戦が以前羽生が敗れた場所で行われる場合も、やはり”羽生の復讐”があると思ってよかろう。したがって、逆にこちらがそれを予期し、罠に引きずり込むことも、有効な手段かもしれない。あとは羽生の復讐心を受け止められるかどうかだ。

今日からの第7局の対局場は「常盤ホテル」。

2008年名人戦第5局の対局場も「常盤ホテル」で、この時、羽生二冠(当時)は森内名人(当時)に相掛かりで敗れている。

15年前とはいえ、田中寅彦九段の説には説得力がある。

森内九段が先手で、”羽生の復讐”を逆用しようと思えば初手は▲2六歩。

羽生名人が先手で、前回の復讐に燃えていれば、前回と先後は違うものの初手▲2六歩。

名人戦第7局の戦型は「相掛かり」と予想したい。

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今日は、女流王位戦第4局、甲斐智美女流王位(2勝1敗)-清水市代女流六段(1勝2敗)も行われる。 →中継