羽生七冠(当時)が感じた不安

将棋世界1996年8月号、羽生善治七冠(当時)のインタビュー「今期の名人戦を振り返って」より。

 名人戦が始まる前は同期同学年で、十五年前はお互い小学生でプロの道を目指してきた森内八段とタイトル戦で戦うことになり、感慨深いものがありました。今までタイトル戦に出場してなかったのが不思議なくらいの実力の持ち主であるし、逆に言うとそれだけ力をためてこのシリーズに臨んできたともいえます。

(中略)

 森内八段の力が充実していたこともあり、この最終局にしろ一局目、二局目もこちらが負ける場面がたくさんありました。四勝一敗が一勝四敗でタイトルを取られていてもおかしくはなかった。ただそういう中でも勝ち切ることができたのには意義があると思っています。

 毎年名人戦は大変ハードな人が出てくるので、きついなというのが正直なところです。また来年もそうなると思いますが(笑)。

 あと、今年のA級のメンバーを見て、名人位を取られてこのA級で戦うのはしんどいなという気持ちもありました(笑)。とりあえず防衛ができてホッとしています。

—–

「今年のA級のメンバーを見て、名人位を取られてこのA級で戦うのはしんどいなという気持ちもありました(笑)」

この言葉は、名人になった棋士だけが感じることができる思いだろう。

しかし、気持ちが非常に理解できる。

本当にイヤだと思う。

—–

この年のA級のメンバーは次の通り。

森内俊之八段

森下卓八段

米長邦雄九段

谷川浩司九段

島朗八段

中原誠永世十段

加藤一二三九段

村山聖八段

佐藤康光八段

森けい二九段

このメンバーを見て、この時に誰もタイトルを持っていなかったのかな、と思い調べなおしてみようとしたのだが、よく考えてみたら羽生七冠の時なので、誰もタイトルを持っていないのは当然のことだった・・・