郷田真隆五段(当時)のメガネ

近代将棋1995年1月号、”亥年の将棋まつり”郷田真隆五段(当時)の「年男として」より。

 今年で私にとっては2度目の年男を迎える訳だが、だからといって何が変わる訳でもなく、早いものだと思うばかりである。

 ただ、年男という言葉の持つ響きは(年女?)独特な感じがあって、何となくバリバリと元気よく生活する様な図を想像してしまう。

 そこで、私自身のことを考えてみると、どうもそういう図、景気のいい話が浮かんで来ない。

 まあそれはそれで良いのだが、今年は、1つ目標を立ててみようと思っている。

 それは日々の生活に活気を持たせることで、積極的に前向きに行動することである。

 私は普段、家でのんびりとしていることが多いのだが、今年は、好きなスポーツ観戦の数を増やしたりして、重い腰を、少し軽くしようかと思う。

 それから、これは前から考えていた事だが、何か習い事を始めようかと思っている。

 今、何となく考えているのは、書道か、ギターやピアノなどの音楽関係のもので、面白そうな気がする。他にも面白そうなものはあるが、読者の皆さんの中で、”これはいい”というものがあれば教えて下さい。

 さて、目標を立ててみても実行できるかどうかも分からないが、何か1つはやり遂げられるように努力したいと思う。

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この年、郷田五段が習い事を始めたかどうかはわからない。

しかし、全く新しいことが始まる。

近代将棋1995年9月号、池崎和記さんの「福島村日記」より。

 王位戦の谷川-郷田戦(挑戦者決定戦)を取材。郷田さんがメガネをかけているのでビックリした。

 三社連合の高林譲司さんに「いつからかけているんですか」と聞くと「一ヵ月くらい前から。視力は0.1とか言ってたけど」。私が「せっかくの男前が少し落ちましたね。郷田さんは絶対コンタクトにすべきですよ」と言うと、高林さんは笑って「そォ? 普通、男はメガネをかけたら男前が上がると言うけどね。本当に落ちてた?」。私は正直な男だから「落ちましたね。女性ファンが少し減ります」と言うしかない。

 昼食のとき、郷田さんと隣り合わせになった。大勝負の真っ最中にまさか「メガネは似合わないです」なんて言えやしないから、「メガネをかけないと盤面が見えにくいんですか」と、つまらないことを聞く。

 郷田さんは「いえ、見えるんですけど目が疲れてくるんですよ」。すると向かいに座っていた浦野六段が「それで三人マージャンしか、せェへんのやな」。

 将棋は郷田さんが快勝した。強い。感想戦が終わってから両対局者、中平邦彦さん、高林さんと飲みにいく。午前二時まで。いや、三時だったかな。

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郷田九段は、なによりも自分の将棋を見てほしいというタイプ。

メガネは喜んでかけたのかもしれない。

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逆に、昔はメガネをしていたのに現在はかけていない代表的な棋士は、先崎学八段と矢内理絵子女流四段。

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現在のA級のメガネ率は60%でB級1組は46%。

2006年に行われたある調査では、日本人のメガネ率は60%だったという。

プロ棋士のメガネ率は高いのだろうなと思いがちだが、実際はそうでもないことがわかる。

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昭和に入ってからの永世名人では、木村義雄十四世名人、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、谷川浩司九段、羽生善治二冠とメガネをかけている。

森内俊之名人だけが唯一メガネをかけていないことになる。