「君は強くなりそうだ。私が保証する。だからタイトルを取ったら賞金の1割よこせ」

近代将棋1986年4月号、山田史生さんのリレーエッセイ「棋界ちょっといい話」より。

 59年秋の十段戦七番勝負第2局、神奈川県の「陣屋」対局の時のこと。勝負が早く終了し、また東京に近いこともあって対局者や関係者の一部はその夜のうちに帰京。開放気分となった残留組の副立会・佐藤大五郎八段、記録の日浦市郎四段、それに私は「陣屋」1階のクラブで飲み、かつ歌った。この時、勝率が全棋士中2位という好成績だった日浦四段に対し、ご機嫌の佐藤八段、「君は強くなりそうだ。私が保証する。だからタイトルを取ったら賞金の1割よこせ」。日浦四段も雰囲気と勢いで「はい、わかりました」。

 にぎやかだったその夜も終わり、翌朝の小田急車中。「佐藤先生、話があります」と日浦。「あー何だ」「昨日の約束取り消してください。酒の勢いでした」。佐藤八段。陰で「何だ気の小さいことを」とぶつぶついったが、私は「大事な賞金を酒の上の約束でやるわけにはいかないのはもっとも。この男、タイトルを取るつもりだな」と、むしろ感心したことだった。

 昨秋、米長邦雄十段が砂丘でヌードになった姿が「フォーカス」に載り話題になったが、その真相は?

 米長十段は理由を聞かれ「あまり気持ちがよかったんで脱いだんだよ」と笑いとばしていたが、ある米長に近い人の話によると、少々裏があったようだ。米長十段の知人で、名のある某氏がフォーカスされた。公表されると具合が悪いことになる。相談を受けた米長十段がフォーカスと交渉した。「某氏の写真をボツにしてもらいたい。そのかわりに私が裸になりましょう」。

 そこで生まれたのがあの写真だったそうだ。米長の男気は立派。しかも”裸が売れる”男はそう多くいるわけではない。

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「君は強くなりそうだ。私が保証する。だからタイトルを取ったら賞金の1割よこせ」

「はい、わかりました」

100人中90人の方は、「だからタイトルを取ったら賞金の1割よこせ」の部分は、酒を飲んだ上でのその場限りの冗談だろうと思うはずだ。

しかし翌朝の会話で、二人とも120%本気であったことが判明する。

恐ろしいとともに、面白い世界だ。

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佐藤大五郎九段の逸話は豪快なものが多い。

豪傑列伝(2)

朝から闘志が充満している対局室

最短手数の将棋

佐藤大五郎九段自慢の一局