23歳の塚田泰明王座(当時)

将棋マガジン1988年11月号、塚田泰明王座(当時)の第36期王座戦(塚田泰明王座-中原誠前名人)第1局自戦記「完全決着戦」より。

世代闘争

 今期の将棋界のテーマははっきりしている。

 「20代タイトルホルダーとそれ以外の世代の対決」。

 それは谷川名人が名人位を奪取し、その時点でタイトルホルダー全員が20代になった事による所が大きい。

 しかし、その20代天下も、南棋聖が田中(寅)八段から棋聖位を奪われた事により、2ヵ月足らずで終わってしまった。

 そして谷川王位には40代の森(けい二)九段が挑戦、で私めが「一年間預かった」(?)王座は、昨年王座戦を戦った、中原前名人の挑戦を受ける事になったのだ。

(中略)

完全決着をつける為に

 今期王座戦の本戦、ベスト4が決まったあたりで、何となく中原前名人の挑戦は予想できた。

 中原前名人は名人位は取られたものの、それ以降は好調のようだ。

 私の今期王座戦5番勝負におけるテーマは、「完全決着をつける」である。

 昨年の私の王座の交代劇は、2連敗後の3連勝で決まったもので、劇的ではあったかもしれないが、私の方にラッキーな面がなかったとは言えない。実際自分自身、「良く取れたな」と思っている。

 しかし今年はそんな訳にはいかない。「タイトルは防衛して一人前」と言ったのは谷川名人だったか。

 私もその意見には賛成である。偶然に王座戦は昨年と同じ組み合わせになった訳で、昨年と今年の5番勝負をワンセットと考え、完全決着をつけたいと思う。

 20代タイトルホルダーが、タイトルを奪取し、それを防衛しない限り、20代中心の流れは作れない。これから1~2年の間は、20代にとって大切な時期になるだろう。

 新しい流れを、しっかりと作れるか―。

(中略)

輝きの周辺

 「誰でも全力疾走する時がある」とは、どこかのCMコピーだったか。

 人間誰でも、一生に一度は輝ける時があると思う。それがいつで、それが何でであるかは分からないが。

 仕事でなくてもいい、大それた事でなくてもいい、その人自身にとって、大切な事であり、一生懸命になれる事ならば、その人は輝けるのだ。

 私にとって、今がその時なのではないかと思う。「一度だけ」とは思っていないが。

 人間が一生の中で、輝ける時は短く、その回数は限られている。

 私自身、自分の天職と思っている「将棋」という職業では、とりあえず30歳、という年齢をひとつのボーダーラインにしている。

 もちろん、30歳で引退する、という事ではない。しかし、「自分の可能性」という事を考えた時、30歳という大台に乗る前に、何か、事を成しておきたい、という気持ちは強い。

 色々な意味で「100%」で盤上に向かえる事は、一生を通しても極めて少ないと思う。

 僕等には時間がない。急がねばならないのだ。23歳という年齢は、もう決して若くない。

(中略)

「見せる」為に

 「UWF」というプロレス団体を御存知だろうか。

 あまりにも「ショー的要素」に走りすぎた既成のプロレスではない。真剣勝負の総合格闘技を目指しているプロレス団体、それがUWFである。

 私はUWFの前田日明選手のファンなのだが、UWFの試合は、それを知らない方でも一見の価値はあると思う。

 プロレス界は「見せる事」に走りすぎて、ファンの支持を失いつつある。それでUWFのプロレスが受け入れられる訳だ。

 ところが我が将棋界だが、「見せる事」においては、皆無と言っていい程無頓着である。

 しかしプロフェッショナルである以上、見てくれるファンの方のニーズに応えていく為のアピールが、もっとあってもいいと思う。

 ちょっと極論になるが、私は、それぞれの棋戦によって、戦い方を変えてもいいのではないか、と最近思っている。

 それは「手を抜く」という類のものではなく、各棋戦のカラーに合わせて戦ってもいいのでは、という事だ。例えば、同じ一局だ、といっても2日制のタイトル戦と、2時間位で勝負のつくTV将棋とでは、戦いの性格が違うのは明らかだ。

 特にTV棋戦の場合は、絶好の自己主張の場なのだから、もうちょっとアピールできる工夫をしてもいいと思う。

 でも具体的に何を?と聞かれると、これが意外と難しい。自分自身、はっきりとは掴めていない気がする。

(中略)

塚田スペシャルの周辺

 レコード業界で「一発屋」という言葉がある。シングルレコード一枚だけビッグヒットして、その後は二枚目は少し売れるものの、何となく忘れ去られてしまう事である。

 「塚田スペシャル」には、どうも一発屋の傾向がある。

 塚田スペシャルも、1号局から数えると、既に2年以上の時が経っているのだ。

 塚田スペシャルの出現によって、私は良しにつけ悪しきにつけ、この戦法と共に、この2年余りの間、戦ってきた。

 塚田スペシャルはこれからも残っていくだろう。しかし、今まで私は塚田スペシャルに縛られすぎた気がする。

 あまりにも頼りすぎたようにも思う。

 守る物が多すぎると、前には進めなくなる。最近の自分の不調を考えると、今こそ、大幅な意識改革が必要なのかもしれない。

(以下略)

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この当時の20代対他世代のタイトル争いは、翌年の竜王戦での羽生善治竜王の誕生によって、全く別の位相の時代に変わっていくことになる。

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今日は、プロ棋士側が1勝2敗で迎える電王戦第4局、塚田泰明九段-puella α(旧ボンクラーズ)戦が行われる。→ニコニコ生放送

私は当然のことながら、プロ棋士側を100%以上応援している。

塚田泰明九段、そして第5局の三浦弘行八段とも、コンピュータソフトを血祭りに上げてほしいものだ。

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電王戦観戦記

第1局 阿部光瑠四段 vs 習甦 (観戦記:夢枕獏)

第2局 佐藤慎一四段 vs ponanza (観戦記:先崎学八段)

第3局 船江恒平五段 vs ツツカナ (観戦記:大崎善生)

→第4局 塚田泰明九段 vs Puella α (観戦記:河口俊彦七段 4/18予定)

→第5局 三浦弘行八段 vs GPS将棋 (観戦記:夢枕獏 4/25予定)

   

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