月刊宝石2001年の何月号かの、湯川恵子さんの「将棋・ワンダーランド」より。
涼しくなったらまた揉んでくださいと言っていた順子が、まだ残暑のうちに電話をくれた。「9月3日、旦那が留守なんですよ、S子さんも一緒にうちで指しまくりましょう」
順子は元、中国象棋の日本女子チャンピオン。知り合ったきっかけも象棋大会会場だった。 背が高い色白な美貌で洋服も派手、やけに目立つけど話すと苦労人らしい気遣いが伝わってくる。おまけに人なつっこい、おしゃべり好き。若い美人には珍しいタイプだ。「岩虎」を知って彼女の人柄を納得した。お父さんが経営する小さな台湾料理店。安くておいしい。高いメニューはない。いつも常連客でいっぱい。中国人と日本人ハーフのお父さんは娘のミニスカートに眉ひそめ、「お尻の穴が見えるような服は捨てなさい」と言う人だ。
順子の将棋はルールを勘違いしてるような異常感覚の頃からファイトが凄かった。負けると唇噛んで悔しがるのに、やめようと言わない。朝まで指す。序盤巧者の親友S子を紹介したらめきめき腕をあげた。プロになれるよっと言ったら本当に動いて蛸島彰子五段を師匠と頼み、いま女流育成会2年目だ。
婚約報告は突然だった。とうに同棲していたとは、おしゃべりなのによく内緒で通したネ。そうからかうと順子はパッと顔まっかにする。
今春、4百人近い人を招いて盛大な結婚式だった。2カ月後”旦那”は王位戦で羽生さんに挑戦。屋敷伸之七段である。
さて9月3日。女3人で指しまくるはずが4人で宴会となった。王座戦予選の対局だった屋敷七段が早々に帰宅したのだ。A図はその一戦の56手目。次の一手を見て相手が投了した。▲7五角。以下8二飛なら8三歩が厳しい(8三同飛は8四歩~4二角成で飛車を取れる)。ついでにB図もどうぞ。夫妻合作の詰め将棋。5七竜以下の5手詰みで詰めあがりはハート形になりますよ。
屋敷七段はもともと強い。18才で最年少タイトルホルダーの記録を作った人だが、結婚して好調は新妻の友としてとても嬉しい。ちなみに酩酊中の夫が妻に「左足で指しても勝てる」と言ったら妻はくやしがって本当に左足で指させたそうです。
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屋敷伸之九段の奥様である順子さんが将棋界と関わるようになったのは、湯川博士さん・恵子さんがシャンチーの大会の取材に行って、そこで柴崎(旧姓)順子さんと知り合ったことから始まる。
そのような縁で、原田泰夫九段邸で行われた将棋ペンクラブ最終選考会や新年会などにも何度か手伝いに来ていただいたことがある。
湯川恵子さんも書かれているように、順子さんは背が高くて色白でエキゾチックな雰囲気の美人。
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順子さんと屋敷伸之七段(当時)が知り合ったのは、リコー将棋部合宿でのことだった。
リコー将棋部の師範であった屋敷七段が、合宿にゲスト参加した順子さんを見染めたことから話が進んだようだ。
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女流育成会を退会した女性を伴侶とした棋士は、後にも先にも、屋敷伸之九段と渡辺明竜王の二人だけ。
二人とも、とても幸せそうだ。