羽生善治編集長企画「新聞将棋の楽しみかた」(中編)

近代将棋1991年1月号、湯川博士さんの「新聞将棋の楽しみかた」より。

この頃の近代将棋では、月替りで棋士が編集長を務める企画となっており、1月号の”今月の編集長”は羽生善治竜王(当時)。

羽生編集長企画の「新聞将棋の楽しみかた」。

毎日新聞(名人戦・A級順位戦)

 名人戦と順位戦を握る新聞社で、井口・加古の二大看板記者が売り物だ。緊迫した順位戦の終盤でもこの二人だけは対局室へ入れるのは最大の強味。最近は大阪本社の福井が加わった。

 井口昭夫は将棋ペンクラブ大賞も受賞した筆力があり、加古は名人戦を運営しているプライドからの意見に重みがある。福井は奨励会を本にした体力がある。井口から。

☆「最近は急戦調の将棋が多い。しかし年をとってくると、急戦よりもじっくり構想を立てて、進めていく将棋の方が好きになった」。38才、年をとったというほどではないが、二十代十代の棋士が活躍しているだけに、真部の言葉には真実味があった。

☆自ら角道を止める△5五歩は内藤らしくない手である。真部は内藤の棋風を信じすぎてこの手をまったく考えなかった。局後「ダマされた」と真部はボヤいたが、内藤は長考の中でこの手を最善と信じたのだ。

 かつて棋界のプリンスといわれた真部も中年男になったが、うまく言葉を引き出して面白い。また相手を疑えない勝負師としては損な性格が活写されている。次は加古明光。

☆将棋界にある種のムードが漂っている。ムードというには正確ではないかもしれない。それは不安なのか、危惧なのか。超人を誇ってきた大山にかげりが生じてきたというのである。

☆「受けばっかりだもんね。さらにどれも受けにくい」と局後大山が珍しくぐちったが、ここまでの塚田は完璧な指し回しだ。

☆彼らプロは終局後「どこでミスをしたのだろう」とはまずいわない。対局中、自分の失着に気付いている。それを思いながら将棋を続けるのもつらい心境だろう。

☆前述したように控え室はまだ人がいっぱいだ。だが奨励会員はいない。(略)先輩たちに遠慮しているのかもしれない。しかし順位戦である。先輩の将棋から何か吸収しようとする貪欲なところがもっとあっていい。

 棋士の所作の活写よりもプロの心境や棋界への意見提言に力を発揮している。次は大阪担当の福井逸治だ。

☆モニターに映った▲7五とに若手棋士たちの叫び声が上がった。「おお、盤石」ここは▲6四との銀とりも目につくが、玉頭にと金を引きつける手厚さこそプロ好み。青野の活路はもう敵の飛角いじめしかない。

☆夜11時をすぎて先手の玉が初めて動いた。▲4八玉。ン!?私は盤側で目を丸くした。ここは▲4九香とでも受けるのだろうと思っていたからである。内藤もその予定だったらしい。

 かつて奨励会を描いた本では体力で書く熱気あふれる文でファンをつくった福井だが、短い新聞将棋欄のスペースではまだまだその良さが出ていないのはもったいない。でも若手棋士たちの叫び声「おお、盤石!」はこのひとことで雰囲気が伝わってくる。こういうものをもっともっと読みたい。

(この期間、加古、井口、加古、福井、加古、福井、加古の順であった。清水考晏は病気休養中とのこと)

—–

産経新聞(棋聖戦)

 定年退職の福本和生が復帰して頑張っている。ここもたくさんの記者・ライターを起用している。以下掲載順に紹介。まず連盟職員の中島一彰。

☆(中村修について)それがここ二、三年は鳴かず飛ばず。コンスタントに勝率六割くらいでは今の棋界では注目に値しない。

☆「羽生君の強さは形勢の良い時は良い時の、悪い時は悪い時の指し方を身につけている点にある」と評したのは谷川王位。

 いうべき点はいっているし、人物評も他の棋士に語らせ、コントロールがいいピッチャーのようである。それでなくては現役職員で観戦記を書くことはできない。次は新顔の保坂勝吾。

☆ 塚田泰明八段は「ぼくら55年組は中間管理職みたいなもの。下からの追い上げが厳しいですね。彼らは先輩後輩関係よりも仲間意識が強いようです」と十代気質を説明。

☆記録係が「夕食休憩の時間になりました」と聞くと、郷田は頭をかきながら「ぼくはどちらでも・・・」と答え南は微笑しながら、「じゃあやりましょうか」。時間に追われるドタンバ。なぜ郷田は?「将棋は負けだと覚悟していましたが、その差はかなり縮まって、休憩に入ればかえってじっくり考えられてしまうと思いました」。

 話題の十代棋士の気質を巧みに描いている。ライターは中年のおじいさんで十代の人のことは書きにくいはずだが健闘していて期待がもてそうだ。次はそろそろベテランに入ってきた山口義明(フリー)。大阪担当だ。

☆この継ぎ歩はすばらしい反撃手順で勝浦は局後「継ぎ歩まで谷川さんの力を借りてやった」と言った。暗に石川が指した手順をほめたわけだが、谷川は少し恥ずかしそうに「私も羽生君の力を借りてやっているよう・・・」と答えた。

 どちらも借り物手順というエピソードだ。こういうほほえましいネタはどんどん書いてほしい。次は杉山直樹。

☆(島は)盤から遠く離れて前傾姿勢をかるく前後にゆすっている。若手棋士の多くはこのスタイルを愛用しているが、元祖はほかならぬ島だと聞いた。ましてや勝ち将棋、元祖の遠望前傾スタイルはひときわさっそうたるものがある。

 遠く離れると、局面を客観的に見れるという説があって、少しでも有利になることならというので流行ったらしい。まあ一種のファッションなんだろうが。ファッションだけに元祖は島ということか。次はサンケイの元祖福本。

☆伊達七段がふらりと入ってきた。阿倍野の旧将棋連盟の話になって、伊達さんが最近訪れてみると建物は昔のままで雑草がはびこっていたそうだ。大野、熊谷、北村、角田さんら亡くなった棋士の顔が浮かぶ。

「つわものどもが夢の跡」―。

 昔の人を書かせるとさすがに味がある。最後は社員記者の榎本弘幸。

☆塚田は前記、挑戦者決定戦まで勝ち上がっていった。(略)しかしつかもうとした瞬間、するりと抜けてしまった。ほぼ勝ちを手中にしていただけに無念の思いは計り知れない。(略)そして今期、あのときの悔しさをバネに、新たな気持で挑戦権を目指していることだろう。

(つづく)

—–

観戦記の定点観測とでもいうべきこの企画。

現代においても、半年に1回でもあればとても嬉しい読み物となるだろう。

しかし、それぞれの観戦記を読み込んだ上で、記事としてまとめるのは非常に大変そう。

事実、この企画は、この1回だけで終わっている。

明日もお楽しみに。

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