将棋世界1992年10月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時 大阪」より。
8月は将棋まつりのシーズン。全国各地でいろんな催しが行われたが、筆者も大阪の近鉄と、博多へ行ってきた。まず大阪。ここは例年に漏れず今年もたくさんのファンが来てくれた。羽生棋王と対談の企画があったので、彼の本を宣伝しようと話を持ち出す。
「羽生先生、本を出されましたね」
「はあ、いろんな戦法を破るつもりで書きましたが、たまには破られになるかもしれません」
「何でいう本でしたかね?・・・確か”羽生のおしり”だったかなあ」
「頭脳です」
所は変わって博多。ここでは例年林葉女史に会える。楽しみで、今年もあの明るい笑顔で迎えてくれた。
「久しぶり直子ちゃん。将棋まつり行ったり来たりで頑張ってんなあ」
「そんなあ・・・でもこの前、将棋まつりのあと、変な人が追いかけてきたんですよぉ。私がタクシーに乗ろうとすると、声をかけてきて『ずっとキミの事を待っていたんだ。さあ、お茶でも飲みにいこう』って。私、ビックリしちゃって。知らない人だし、黙って車に乗ったんですけど、その人も私のカバン掴んで一緒に入って来ようとするんですよ」
「怖かったやろ」
「でも、怖がってもいられないので、ちょっと強気にアナタとは初めて会ったのに、どうして行かなきゃなんないんですかって言ったんです。そしたら『男と女の出会いは始まりからなんだよ』なんて言うんです」
「うわ~」
「でね、ずっと拒んでたら、パッとカバンから手を離して『キミって冷たい人だ』そう言ってスタスタ歩いて行っちゃったんです」
「フウ、それは良かったやん。で、その人、どんな人やったん」
「それがね、歳の頃は20代半ばで、顔が・・・」
「顔が?」
「郷田先生に似ていたんですよ」
う~ん・・・なんぼ郷田君に似ていても、この誘い方は悪手だったか。
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郷田真隆四段(当時)にとってはやや迷惑な話だが、世の中にはいろいろな人がいるものだ。
▲7六歩△8四歩のあと、いきなり▲3三角成と王手をかけてくるようなアプローチ。
あまりにも性急すぎる一手だ。