奨励会に入る1年前の羽生善治少年の写真

将棋世界1994年8月号、写真家の弦巻勝さんの写真エッセイ「ぼくのアルバムから 羽生さんの子供の頃」より。

 小学校5年生、将棋のプロになっていないが、すでに噂の羽生睨みは僕の写真に写っている。

 かわいらしくてハキハキしていて、子供将棋大会でも目立っていた。この年、小学生名人戦でベスト8まで行っている。時の準優勝は現女流名人の中井広恵さん。

 将棋を指す時の手つきは今とそれほど変わっていない。本のモデルにピッタリと思い、小学館出版、原田泰夫九段・田辺忠幸氏による「将棋入門百科」の表紙モデルとして僕は撮影した。後、原田九段宅で二枚落、棋譜は九段の所に残っていると思うが、老獪な九段に羽生睨みは通じず。

 九段は酒を召し上がると、あの天才羽生に二枚落として勝ったのであるから、原田は十三段とも十五段とも言えると高笑い。

 九段は今期名人戦第6局の立会人も務められ、打ち上げの酒席でも同じ話の原田節で高笑い。しかし目もとが少しぬれていたように思う。

 あれから十一、二年、羽生さんをずいぶん撮らせてもらったが、あの時からモデル代を払った記憶がない。名人になると、モデル代もそうとう高いんだろうなあ。いっそのこと、僕はこのままモデル代を払わないで通そうと思っている。いいよね…羽生名人…。

将棋世界同じ号より、撮影は弦巻勝さん。

将棋世界同じ号より、撮影は弦巻勝さん。

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文中に出てくる「将棋入門百科」という本は、1982年に発行された「将棋初段への道 (小学館入門百科シリーズ 118)」と思われる。

この本のカスタマーレビューなどを調べてみると、

  • 小学校5年生の羽生善治少年の棋譜が二つ載っており、一つが原田九段との二枚落ち戦で羽生少年の負け、もう一局が同年代の少年と指した一局で羽生少年の勝ち
  • 版を重ねて「その後の羽生少年」という記述などが加えられた
  • 中倉彰子・中倉宏美姉妹対局、小学生名人戦に出たときの中井広恵女流六段、佐藤康光九段の写真も載っている

と書かれている。

また、遠山雄亮五段が将棋を始めた頃から読んでいたのがこの本。

(1)将棋を始めた頃(遠山雄亮のファニースペース)

流通している古書を見てみると、表紙は二人の少女。

将棋初段への道 (小学館入門百科シリーズ 118) 将棋初段への道 (小学館入門百科シリーズ 118)
価格:¥ 713(税込)
発売日:1982-01

表紙の写真だけからはなかなか判断できないが中倉彰子・中倉宏美姉妹と見て間違いないだろう。

中倉彰子女流初段が将棋を始めたのが小学1年生、中倉宏美女流二段が将棋を始めたのが4歳の時なので、「将棋初段への道」初版が発行された頃はまだ二人とも将棋を覚えていない。

そういうことなので、新板から表紙が中倉姉妹に変更されたのだと推測される。

羽生少年が表紙のバージョンは、「棋書ミシュラン!」の「将棋初段への道」のページで見ることができる。→初版の表紙

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羽生少年が小学生名人戦で優勝するのは小学6年の時のこと。

小学生名人になる前から、羽生少年は注目をされていたということになる。

見る人が見ればわかる、やはりプロの目はすごい。