将棋世界2004年2月号、巻頭コラム「一手啓上 第14回 先崎学八段」より。
皆様と話す時にもっともよく訊かれるのが、「どうやったら強くなれるか」ということである。いうまでもなく、永遠の難問だ。「私にも分かりません」「詰将棋」「得意戦法を」などと答えるが、こちらも確信があるわけではないのである。
なんにせよ、将棋は、やはり勉強しなければ強くはならない。これは真理である。しかし皆様は、そんなに苦労せずに、できるだけ楽をして強くなりたいという気持ちが強いようである。
そこで特別に、何の苦労もなく、将棋がちょっとだけ強くなる方法をお教えしよう。
それは、「深呼吸をすること」である。
勝負所で、目をつむり、大きく息を吸って吐いてから考える。これだけで、必ず勝率がアップするはず。とくに手が見えなくて焦りをおぼえる時に有効である。
できれば一局に二回、終盤の入り口と最後の詰みの局面で深呼吸をしていただきたい。不思議なほど頭がすっきりして、見えなかった手が魔法のように見えるはずである。鼻からゆっくり息を吸って、口から吐く。脳に酸素がいきわたる感じがきっと貴方を勝たせるはずだ。
実は、これはあらゆるゲームにおける必勝法である。ピンチの時はあわてずさわがず、とりあえず落ち着いてみることが大事だ。ゲーム以外にも応用が利くかもしれない。誰にでもできてしかもタダ。ぜひお試しあれ。
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実際に私もネット対局をやっている時に試してみた。
中盤の、アツくなるような乱打戦、「次はこの手で行くしかないな」とやや過激な手が第一感で浮かんだ時に、試しに深呼吸をしてみた。
すると、一瞬の間に二つ、新たな候補手が頭の中に浮かんできた。
そのうちの一つは、なかなか冷静な好手に思えた。
第一感の手を捨て、その手を指すことにより、形勢は好転した。
先崎学八段(当時)が書いている通り、深呼吸のご利益は絶大のようだ。