観戦記者の深刻な悩み

将棋世界1985年10月号、第26期王位戦〔加藤一二三王位-高橋道雄六段〕第4局「王位戦こぼれ話」より。

 新聞の観戦記を担当していたのは、おなじみ神戸新聞の中平邦彦記者。

 七番勝負も四局目ともなると対局者の人となり、といってもほぼ出尽くすし、戦型も同じ相矢倉とあってか「何か話題はないか」と涙ぐましい取材が続いた。

 「こんな時内藤九段だと対局中でもさりげなく話題を提供してくれて2、3日分は出来るけど、加藤さんはクリスチャン、高橋君は酒、バクチ等遊びなしの品行方正さ。おまけに対局中は無言なのでとても協力は望めない」と困った顔を見せる。

 対局中チャランポランもいけませんが、マジメが困るとは、いろいろ悩みはあるものですね。

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番勝負の観戦記は、通常の観戦記の倍近く(例えば通常が6譜なら番勝負は12譜)あるので、このようなケースではさすがの中平邦彦さんでも悩んでしまうところ。

棋譜の細かい変化を書けば埋まるが、それだけではほとんどの人に読んでもらえなくなってしまう。

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逆にいえば、この頃はタイトル戦の一日目が中心だろうが、対局中に会話がある方が普通だったということになる。

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私もNHK杯戦の観戦記を書く時には、もし何もエピソードを見つけられなかったらどうしよう、と毎回かなり心配をしながら当日を迎えている。

放送されたことしか書けなかったら、視聴者の方がテレビを見て書けてしまうことと変わらなくなってしまう。

それだけは避けたい。

そういう意味では、放送に映らないエピソードについては、対局前と対局後の控え室の30分強、リハーサル、収録終了後の感想戦、後日取材が命。

特に対局前の控え室は物語の発端になる場所。両対局者がほとんど無言の場合もあるが、普段は集中力散漫な私も、この時は目と耳と頭に最高度の集中力を注ぎ込んでいる。

ただ、その分、手には集中力が回っていないようで、ノートに書いた字が、後から見て判別不能な時があるのが悩ましいところだ。

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ちなみに、対局前の控え室で、何もしゃべっていない時でも動作に動きがあって面白いのが、三浦弘行九段と行方尚史八段と山崎隆之八段。