今年の5月29日に亡くなられた元・近代将棋編集長で将棋ペンクラブ幹事の中野隆義さんから、このブログのコメント欄に寄せられた数々の棋士のエピソードより。
升田流のところに取材に参りましたおりに、奥様がこんな話をしてくれたことがありました。
「主人たらね。この間私が近所で銀行の副頭取だかをされている方の庭先の道を通りましたら骨董品というのですか、いくつも並んでいるのを見せられていろいろ講釈をされましたんですよ、って、そう話しましたらね、二三日したら、『おっ、副頭取の骨董品を見てきたぞ』って言うんです。私ちょっと心配になって『なにかまた仰ってきたんですか』って聞いたら『おお、ちゃんといろいろと見させてもろてだな、最後に、銀行の副頭取では、ま、この程度のものだな』って言ってきてやったって言うんですよ。私、恥ずかしくてもうご近所歩けませんわ」
もうご近所歩けませんわ、と言いながら、奥様はころころと笑っていらして、私めはこのとき升田流は奥様をこよなく愛されているのだなと思ったのです。
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昔の漫画「意地悪ばあさん」を思い出させるような升田幸三実力制第四代名人の行動。
数々の大物財界人や芸術家と親交があった升田実力制第四代名人だからこそ言えるセリフだ。