大山康晴十五世名人「加藤一二三さんよりひとつ多くなったわけですね」

将棋マガジン1984年5月号、NHKディレクターの沢みのるさんの第33回NHK杯戦決勝戦〔大山康晴十五世名人-加藤一二三前名人〕観戦記「大山十五世名人、8回目の優勝」より。

「大山十五世名人が、NHK杯戦8回目の優勝です。通算の優勝記録は124になりました。おめでとうございます」と永井英明さん。

「加藤一二三さんよりひとつ多くなったわけですね」と、にっこり嬉しそうな大山名人。もちろんこれは加藤前名人の名前にひっかけたものだ。”超人”大山がまたひとつ前人未到の大記録を積み重ねた。昭和26年にNHK杯戦が始まって以来33年間連続出場という一事だけをとっても、気の遠くなるような大事業だというのに――ただただ感嘆、敬服の他はない。

(中略)

 今期準々決勝の谷川・加藤戦(2月12日放映)は、関東地区ビデオリサーチで、最高時7.7%を記録している。準決勝、加藤-米長の200手を超す熱戦も話題をあつめた。

 テレビ将棋の視聴者には加藤ファンが多いが、それも当然だろう。盤上の駒をいつくしむように人差し指でちょん、ちょんとさわる手つき。かと思えば盤も割れよとばかり勢いこめて叩きつける迫力。陸上競技のスタートのような独特の身構え。さらには膝で立ち、よってやおらバンドをしめなおす例のポーズ。それが見ていて実に楽しい。まさに巧まざる大テレビタレントであって、この点に関する限り、さすが人材豊富な将棋界にも対抗馬がちょっといない。それだけに、加藤前名人がすばらしい勢いで勝ち進んでくるのはうれしい。

 和服の大山、背広姿の加藤と、いつもと同じスタイルだが、決勝戦とあって、心なしかいっそうの緊張感がスタジオに漂っている。

(中略)

 ▲4九金打と再度の”大山流”が遂に加藤前名人の息の根を止めてしまった。以下は取れる飛車を最後まで取らず、心にくいばかりの寄せで大山名人の快勝となった。

 さて、こうなってみると、大山十五世名人のNHK杯での優勝記録がどこまで伸びるかが興味の的になってきた。囲碁の方では坂田栄男九段の11回優勝というとてつもない記録があり、10回優勝を記念して名誉NHK杯選手権者の称号が贈られている。大山名人にも同じ称号が贈られる日が、意外に近いかもしれない。

将棋マガジン同じ号のグラビアより、この時のNHK杯戦決勝の模様。加藤一二三前名人(当時)のもの凄い迫力。撮影は弦巻勝さん。

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大山康晴十五世名人の通算優勝記録124、このNHK杯戦優勝が大山十五世名人にとっての最後の優勝となった(大山十五世名人は1992年、A級在籍のまま亡くなっている)。

「加藤一二三さんよりひとつ多くなったわけですね」は、前々から考えていた台詞なのかもしれないが、加藤一二三九段に勝って言えるところが大山十五世名人の引きの強さ。

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大山十五世名人の通算優勝記録124(タイトル戦80・一般棋戦44)は歴代2位の記録。

1位は羽生善治竜王で143(タイトル戦99・一般棋戦44)。

羽生竜王と大山十五世名人の一般棋戦優勝回数が現時点で同じだ。

羽生竜王も凄いが、大山十五世名人も凄い。

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NHK杯戦で羽生善治二冠(当時)が10回目の優勝を果たして名誉NHK杯選手権者の称号を得たのが2012年のこと。

NHK杯戦での優勝回数は、大山康晴十五世名人が8回、加藤一二三九段が7回、中原誠十六世名人が6回。

いかに名誉NHK杯選手権者になることが難しいかがわかる。

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今日はNHK杯戦決勝、山崎隆之八段-稲葉陽八段戦が放送される。

解説は谷川浩司九段。

 

 

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