中村修六段(当時)「真の敗因はですねえ、昼食に食べたいものが食べられなかったからなんです」

将棋マガジン1985年1月号、片山良三さんの第15回新人王戦決勝三番勝負〔小野修一五段-中村修六段〕第2局観戦記「小野修一五段二度目の優勝」より。

 中村にとっては、何とも不本意なシリーズであったと思う。その夜の酒の席でふっともらしたことばが印象的だったので紹介して結びとしたい。

「真の敗因はですねえ、昼食に食べたいものが食べられなかったからなんです。私はカモ南ばんが食べたかった。だけど相手のいる前で”カモ南ばん”とは言えないですよ……。私は弱い男なんです」

 ふざけて言っているのではない。こんな優しい男が将棋界にもまだいたのである。私はいっぺんに中村ファンになってしまった。

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この期の新人王戦決勝三番勝負が始まる前まで、小野修一五段(当時)は中村修六段(当時)に0勝4敗。

昨日の記事の小野五段の自戦記にもあるように、小野五段は勝負面では中村六段を苦手と意識していた。

このような状況下で、たとえ中村六段が小野五段のことを「カモ」と思っていなかったとしても、昼食に「カモ南ばん」を頼めば、小野五段を傷つけてしまうのではないか、あるいは変に刺激をしてしまうのではないか、と中村六段は心配したことになる。

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「カモ」は、鴨が捕まえやすい鳥であることから、このような俗語になったと言われている。

「鴨が葱を背負ってくる」は、さらにおあつらえむきな状況を指して使われる言葉だが、鴨南蛮の”南蛮”が葱を意味している。

そういうわけなので、「鴨南蛮」は「カモネギ」と同義語と考えることもできるわけだ。