将棋マガジン1987年1月号、コラム「棋士達の話」より。
- 対局中の食事は好みがあるが、充実感がないと深夜まで頑張れないというのか鰻重とカツ丼に人気がある。しかし胃に物を入れると考えるジャマになるといって少食の者も多い。升田幸三九段の昼食はいつも「生卵3個」だった。
- 米長邦雄十段は”チャメ長”と呼ばれた。若い頃酒を飲んだ後「自分のサインをする」といって道路にオシッコで字を書いた。それが何と”米長邦雄”としっかり読めたので一同感心したという。
- 中原誠名人が2、3人の若手を夕食に誘った。この場合習慣で会計は名人払いになる。最初に中原名人は「今日は持ち合わせが少ないから安い店にしよう」といったところ、野本虎次七段「いえ、私が金を貸しますから高いところでおごってください」
- 嫌いな食べ物では谷川浩司棋王のエビとカニ。高橋道雄王位がイカとタコ。青野照市八段の鳥肉が有名。大山康晴十五世名人に「何でも食べるようにならなければダメだよ」といわれた青野八段「でも大山先生も猫は食べないでしょう」
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なぜ食べ物の話の中に道路にサインの話があるのか分からないが、とにかくそういうことだ。
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升田幸三実力制第四代名人の対局時の昼食はゆで卵2個という記録もある。
生卵とバナナは、はるか昔は高級品とされていたので、その名残りもあったのかもしれない。
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「今日は持ち合わせが少ないから安い店にしよう」
たしかに、千駄ヶ谷には銀行が見当たらない。
調べてみると、国立競技場のそばに「ゆうちょ銀行 本店 JP共済会館内出張所」、原宿へ向かった方に「三菱東京UFJ銀行青山支店千駄ヶ谷三丁目出張所」があるだけで、それぞれ気軽に立ち寄ることができる距離でもない。
コンビニにATMが設置されるようになったのは1998年以降。
クレジットカードを使うことができない店もあるので、千駄ヶ谷近辺で現金の持ち合わせが少ない場合は、安い店を選択するに越したことはない。
そういった意味では、野本虎次七段「いえ、私が金を貸しますから高いところでおごってください」という現金主義も正着と言えるだろう。
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私はタコやイカは嫌いではないけれども、積極的に食べたいとも思わない微妙な位置付けの食べ物。
少なくとも、タコ焼きにはタコが入っていないほうが美味しいのではないかと思っている。