誰も真似のできない「次の一手」

将棋マガジン1987年9月号、コラム「棋士達の話」より。

  • 次の一手は難問もあるが大体棋士は分かるもの。しかし10年程前、故・花村九段の出題に分からないのがある、と若手達で話題になった。仕方なく次号の解説を見たところ「ここではすでに不利だが、これが最善の勝負手。私はこれで勝った」え、そんな。

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花村元司九段が担当したこの次の一手は、1978年の将棋世界の「三段コース試験問題」と思われる。

「ここではすでに不利だが、これが最善の勝負手。私はこれで勝った」に該当する問題は、この年の将棋世界がほとんど手元になく、見つけることはできないが、そうではない問題も、似た雰囲気があるので紹介したい。まさしく花村流。

将棋世界1978年12月号「第90回三段コース試験問題」より。

難局。最善手は。

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将棋世界1979年2月号「第90回三段コース解答」より。

正解 ▲5四歩(24%)

 局面は終盤、先手の手番だけに指せる図ですが、なかなかの難局です。

 ▲5四歩と取り込み、▲5五歩の王手飛車をねらう筋を正着とします。

 ▲5四歩△同金は絶対として、次の手がむずかしい。

 金の形を乱したことは大きな利かしですが、▲6一角は△8六歩▲同歩△8七歩(好手)▲同金△8五歩の強襲があります。▲8三銀と飛先を止めても△8六歩で負け筋。

 また▲6八銀△6九馬▲5八角で馬の交換をはかる手は、△同馬なら▲同飛が金に当たり先手も指せますが、△8七飛成▲同玉(▲同金は△6八馬)△8六銀の妙手(△8六歩は▲7七玉で受かる)▲同玉△7八馬と金を取られ、△9五金の詰みと△6八馬の銀取りを同時に防ぐ手はなく負けとなります。

 △5四同金に▲7七銀と引き、△6九馬(△6九銀は▲6八銀打で受かる)▲8六銀と飛先を受け、次に▲7七角の王手から▲5八銀の馬取りがあります。▲8六銀に△8五歩なら▲7七銀と戻って大丈夫。

 △5四同金以後の変化はむずかしく、先手も大変ですが、▲5四歩以外に指す手はありません。

 ▲4四歩。有力な筋ですが、△3三金寄▲3五歩△8六歩▲同歩△8五歩(△8七歩の筋もありそう)▲3四歩△8六歩▲3三歩成△同桂と金銀得をしても、△8七銀の詰みが受かりません。

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「▲5四歩△同金は絶対として、次の手がむずかしい」とあるのだから、正解率24%といっても3手先以降の花村九段の読みに到達した人は皆無に近かったに違いない。

▲5四歩△同金▲7七銀~▲8六銀~▲7七角~▲5八銀など、あまりにも玄人っぽい手順だ。

そもそも実戦だったなら、3問図では▲3五歩と打ってしまうところ。

しかし、それでは後手からの△8六歩▲同歩△8五歩▲同歩△8六歩の垂らしから△8五飛~△8七銀が猛烈に早いということなのだろう。

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鼻血が出そうになるほど難しくて渋い次の一手だが、花村九段の読みと真正面から向かい合える、プロの筋を鑑賞できる非常に貴重なページだったとも言えると思う。

花村元司九段はこの時60歳で順位戦A級だった。