将棋マガジン1987年2月号、コラム「棋士達の話」より。
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将棋に反則はつきもの。どういうわけかプロ間でも年に何局かは出現する。佐藤義則四段は対池田修一五段戦に何を打っても詰む局面で一間飛びに二歩を打って負け。ただ新婚一週間目とあって、早く帰りたかったんだろ、と同情を呼ばなかった。
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そそっかしい事で知られていた故・大野源一九段。A級順位戦で必勝の局面を築いたが、終盤王手をかけられているのにこれを受けず別の手を指してしまった。相手の故・塚田正夫名誉十段「大野君、すまないけどこの王様もらうよ」
将棋マガジン1987年6月号、コラム「棋士達の話」より。
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故・山田道美九段がうっかり二歩を打ったが、相手の大友昇八段、すかさず王手にタダの駒を打ち「待った封じだ」という。3手進めばアマでも反則成立というわけだが、待ったなんかするはずはない、と山田九段はダブルのくやしがりようだった。
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プロの対局での反則は、二歩、 二手指し、王手放置、動けないところに駒を進める、成れない状況で駒を成る、などが事例としてあるが、やはりその中で圧倒的に多いのは二歩だという。
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振り飛車名人・大野源一八段(当時)の王手放置は次の局面から。
△2八飛と王手をかけられたところで、大野八段は「なんだい、こんな王手したってしょうがないじゃないか。王さん引けば投げの一手なんだあー」と話している。
しかし、ここで「大野先生、ここから一分将棋です」と記録係。
大野八段は秒読みになると慌ててしまうクセがあり(自分が秒読みになったらもちろんのこと、相手が秒読みになっても)、「えっ、もう時間か」と言うなり、▲3一角と打ってしまったのだった。
塚田正夫九段はこの一局に負けると降級の目がある。
「大野くん、悪いけどこれ、もらっとくよ」と玉を取る塚田九段。
「なにするんやっ!」と大野八段。この瞬間はまだ王手放置と気付いていなかったのだろう。
塚田九段「ぼく、いま苦しいんだ」
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王手放置は石田和雄九段も経験がある。
藤井猛九段も奨励会時代に経験している。