A先輩の大胆な仕掛け

近代将棋1983年7月号、「関東奨励会」より。

 級位者では羽生君が3級へ、中曽根君が5級へそれぞれ昇級。小学生名人戦コンビだ。木下君も4級へ昇った。あと調子の良いのは豊川5級。8勝1敗で3番上がりの一番をむかえている。1局目で決める気持ちが必要だ。

 記録係の募集中、「ハイ、ハイ、ハイ」という声が一斉に上がった。この日は希望者が多かった。

A先輩「うるさい!!みんな静かにして、幹事の先生の声が聞こえないじゃないか」

 先輩にそう言われれば黙るより仕方がない。室内がシーンとなった。

 A先輩、幹事に向かって「私を、お願いします」(爆笑)

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この反対に、記録係の募集に苦労するケースもあった。

「僕の対局には、記録係がなかなかつかなくてね」

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このA先輩の戦術とは少し異なるが、10年ほど前の女流名人位の就位式(里見香奈女流名人)の撮影時間の時のこと。

50人以上のカメラマンがパチパチと写真を撮りはじめてから1分ほどした頃、突然「香奈ちゃん!」と呼びかけるような大きな声がした。

声だけで、誰かがわかった。弦巻勝カメラマンだ。

弦巻さんは、里見香奈女流名人が声があがった方向(弦巻さんがいる方向)に振り向いた瞬間を撮影する。

大胆な技だが、名人芸だと思った。