近代将棋1985年1月号、能智映さんの「呑んで書く 書いて呑む」より。
10年も前だったろうか、「将棋世界」誌に面白い投書が載っていた。はっきりは覚えていないが、簡単にいえばこういうことだった。
「大山の時代から中原の時代になった。その次はきっと小川の時代がくるであろう」
単純な文字遊び。大、中、小に山、原、川をくっつえて将来を占っただけのものだったが、それが意外に的中してしまったからおかしい。”小”が”谷”となっただけ、その文が載ったころには、まだまだ子供だった谷川浩司名人が天下を取ろうとはだれも予測はしなかったはずだ。
酒を呑んで馬鹿話をしているとき、こんな文字遊びをたのしむことはよくある。そういうことでは棋界一の加藤治郎名誉九段に最近聞いた話も面白かった。
「自分の子を女流棋士に育てようと思ったら、恵美子か美恵子と名付ければいいんだよ」というのである。ちょっとピンとこないが、あとで聞けば「なるほど」とうなずける。加藤先生、鼻をひくつかせながらいうのである。
「わからないかなあ。じゃあ将棋手帳の女流棋士の名を見てみればすぐわかるよ」
その話を聞いていた将棋担当記者の何人かが手帳をくって納得した。
これは不思議、女流棋士の名はすべて”子”と”美”と”恵”で終わっているのである。
蛸島彰子四段、山下カズ子四段、林葉直子女流名人・王将、関根紀代子三段以下、やはり”子”の字の人は圧倒的に多いが、”恵”には谷川治恵二段、中井広恵二段がいて、”美”には福崎睦美初段、山田久美初段、神田真由美1級がいる。そして、今のところそれ以外の字で終わっている名はなく、森安多恵子二段などは2つの字が重なっているではないか。
(以下略)
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現在の現役女流棋士の名前の一番最後の文字を調べてみると、
- 子…13人
- 美…4人
- 恵…3人
台頭してきたのが、
- 愛…3人
- 紀…3人
続いて
- 生…2人
- 奈…2人
- 花…2人
- 菜…2人
- 香…2人
- 乃…2人
だからどうしたというわけではないが、”子”と”美”と”恵”だけで終わっている時代は当然のことながら変化し、「自分の子を女流棋士に育てようと思ったら、恵美子か美恵子と名付ければいいんだよ」という現実も待っていなかったことがわかる。
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ちなみに、森信雄七段の奥さまは恵美子さんだ。