将棋マガジン1987年7月号、「第45期名人戦解説会レポート 内藤九段を質問攻め」より。
内藤「将棋の解説の方は、この後の若い小林八段にまかせて、ちょっと盤上から離れた話、また質問がありましたら何でも答えます」
ファン「先生にとって、今日の両対局者はどのような存在ですか?」
内藤「私が亡くなりになった山田道美九段と、棋聖戦の挑戦者決定戦を戦ったことがありまして。その時に、背筋をピンと伸ばして正座を崩さずに記録をとっていたのが、当時の中原誠奨励会三段でした。一方の米長邦雄奨励会員は、おおあぐらをかきまして、しきりに頭をかいているんです。しまいには新聞紙をひろげてフケを集めだしました(笑)。いやあ、態度が大きい大きい。しかし、不思議と憎めない感じがしました。名人戦の立会人をつとめるのは今回が初めて。自分の記録をとった両者の立会人とは、私も歳をとったもんですね(笑)」
ファン「最近、酒を絶っているといううわさがありますが?」
内藤「絶っていません。ただ量はへらしています。17歳のとき藤内先生につれられて初めて飲んで、もう30年も飲み続けてきたんで、1年ぐらい休憩してもいいかと思っています。お酒はお金がかかって、時間使って、神経使って、評判落としますからね(笑)」
ファン「私は谷川九段の大変なファンですが、名人にカムバックできるのでしょうか?」
内藤「私はアントニオ猪木の大ファンですが、彼がなぐられると痛々しく感じて仕方ないんです。谷川君は彼が8歳の頃から知ってまして、身内意識からか、やっぱり痛々しくてたよりない感じがするんです。将棋だけが単に強いというのではなく、相手に嫌気をおこさせて頑張らせないようにさせるような雰囲気を持つことが必要ですね。ところが、それが彼には全然ない。きれいすぎるんです。もうちょっとそういう面がなければ、彼が名人になるのはむずかしいんちゃうか、正直いってそう思ってます。とはいえ、私が名人になる可能性よりは強いでしょう(笑)」
(以下略)
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「将棋の解説の方は、この後の若い小林八段にまかせて、ちょっと盤上から離れた話、また質問がありましたら何でも答えます」が、いかにも内藤國雄九段らしいサービス。
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「お酒はお金がかかって、時間使って、神経使って、評判落としますからね(笑)」
神経を使うか、評判を落とすか、はケースバイケースとして、お金と時間を使うのは確かなことだ。
とは言え、目に見えない何かが人生の肥やしや芸の肥やしになっているのだと思う。思いたい。
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「将棋だけが単に強いというのではなく、相手に嫌気をおこさせて頑張らせないようにさせるような雰囲気を持つことが必要ですね。ところが、それが彼には全然ない。きれいすぎるんです。もうちょっとそういう面がなければ、彼が名人になるのはむずかしいんちゃうか」
という話はあったが、この翌年、谷川浩司九段は名人を奪取することになる。
相手に嫌気をおこさせて頑張らせないようにさせる大山康晴十五世名人、相手に闘志を燃やさせない中原誠十六世名人。
強すぎるので嫌気が起きる、ということもあるだろうが、「北風と太陽」で言えば、大山十五世名人までが北風路線、中原十六世名人以降が太陽路線になったと考えることができそうだ。