近代将棋1985年2月号、信濃桂さんの第8回若獅子戦1回戦〔島朗五段-飯田弘之四段〕観戦記「相穴熊の闘い」より。
観戦記者と棋士の間にも縁というものがある。頻繁に手合がつく棋士、不思議に当たらない棋士さまざまだ。観戦したことのない棋士の将棋に一度でも接すると、それが2,3回続いたり、などということもある。
棋士同士「あいつとはこのところよく顔が合うな」ということがよくあり、同じ対局者の連闘も珍しいようで案外あるものだ。私自身、最近加藤一二三王位-田中寅彦八段戦を二度続けて観るという経験をした。対局室も同じ、おまけに戦型も同じ。いざ筆を執る段になって面食った。
島朗五段は20代前半の若手の中では最も縁のある棋士で、ここ2、3年の間にそろそろ十本の指が必要なくらい観戦させてもらった。しかも勝率がよい。
棋士の側にも「あの人に横に座られると、もう勝った気がしないんだ」ということがあるそうで、私のことではないけれど、そういう告白をA級八段の棋士からうけたこともある。その逆のケース、つまり島五段のケースは、観戦記者にとって嬉しいものだ。
しかし私にもバツの悪い棋士がいる。盤を離れたところでは親しくさせてもらっているのに、観戦するとどうも勝てない。これも縁の一種なのだろうか。
(以下略)
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私が観戦記を書かせていただいているNHK杯戦は、対局をしている横に座るのではなく、ディレクターなどがいる副調整室で観戦をしているので、「あの人に横に座られると、もう勝った気がしないんだ」と思われることは通常の棋戦に比べて少ないと思うが、それでも、自分が観戦記を担当した時のそれぞれの棋士の勝率は気になるものだ。
延べ9年間で、3勝0敗の棋士が1人、2勝0敗の棋士が2人、2勝1敗の棋士が2人、1勝1敗の棋士が2人、1勝0敗と0勝1敗の棋士は多くいるとして、0勝2敗の棋士が3人いる。
0勝2敗の3人の中の1人が豊島将之名人(昨年放送の準決勝・対稲葉陽八段、今年放送の準々決勝・対羽生善治九段戦)。
準決勝・準々決勝、かつ対局相手が超強い、ということはあっても、やはり気になってしまうもの。
ちなみに、この2回とも、解説は斎藤慎太郎王座。
これまでのところ、斎藤王座がNHK杯戦で解説を担当したのは、この2回だけ。
私によるものではない、斎藤王座のせいだ、と思おうと考えたが、やはり気になる。
昨年放送の準決勝の後、豊島八段(当時)は棋聖、王位を獲得した。今年放送の準々決勝の後、豊島二冠(当時)が名人位を獲得した。
だから、、と言っても、それはそれ、これはこれ。
バツが悪い、とまではならないものの、やはり気になり続けるものなのである。