谷川浩司名人(当時)「私の年齢でこんなことを言うのもおかしいのだが、最近、月日の経つのが非常に早く感じられる。今年は特にそうである」(1988年8月の全スケジュール)

近代将棋1988年11月号、谷川浩司名人(当時)の「新幹線車中にて」より。

 私の年齢でこんなことを言うのもおかしいのだが、最近、月日の経つのが非常に早く感じられる。今年は特にそうである。

 無理もないのかもしれない。年明けの棋王戦から始まって、名人戦、王位戦と、休む暇もなくタイトル戦が続いたのだから―。

 この原稿を書いている時点で、王位戦は3勝3敗のタイスコア。最終局がどちらに転ぶかは判らないが、これでやっと一息つくことができる。

 例えば、今年の8月のスケジュールを振り返ってみると―

  • 1日(月)パーティ出席後、6日の祝賀会の打ち合わせ
  • 2日(火)旭川行き(所要6時間)
  • 3日(水)王位戦第3局、森九段<旭川>
  • 4日(木)王位戦2日目 ○
  • 5日(金)神戸帰宅(所要6時間)色紙書きなど
  • 6日(土)名人復位・三冠達成記念祝賀会
  • 7日(日)将棋世界指定局面対局、塚田王座千日手<大阪>
  • 8日(月)近代将棋、月刊現代原稿
  • 9日(火)将棋世界原稿
  • 10日(水)全日プロ、伊藤博四段○<大阪>
  • 11日(木)長野行き(所要6時間)
  • 12日(金)長野東急将棋まつり出席、大阪へ(所要5時間)
  • 13日(土)大阪近鉄将棋まつり出席
  • 14日(日)福岡行き(所要4時間)
  • 15日(月)王位戦第4局、森九段<福岡>
  • 16日(火)王位戦2日目 ✕
  • 17日(水)神戸帰宅(所要4時間)
  • 18日(木)免状署名、棋譜並べ
  • 19日(金)竜王戦、青野八段○<大阪>
  • 20日(土)ゴルフ
  • 21日(日)全日空翼の王国原稿、棋譜並べ
  • 22日(月)大阪で、日経マネー、美里美寿々さんと対談
  • 23日(火)徳島行き(所要4時間)
  • 24日(水)王位戦第5局、森九段<徳島>
  • 25日(木)王位戦2日目 ✕
  • 26日(金)神戸帰宅(所要3時間)
  • 27日(土)金沢行き(所要4時間)日本シリーズ前日祭、指導対局
  • 28日(日)日本シリーズ、高橋十段✕<金沢>神戸帰宅(所要4時間)
  • 29日(月)週刊民社取材、NHKテキスト原稿
  • 30日(火)NHKテキスト原稿
  • 31日(水)モダンダンス、江口乙矢先生宅へ

 もちろん、8月は王位戦の他に、将棋まつり等の催しも多く、一番忙しい時期ではあるのだが、それにしても、全く仕事をしなかった日が20日と31日の2日間しかない。

 手帳に予定がぎっしりと書かれていることを嬉しく思った時期もあったが、やはり、仕事とプライベートはバランス良く。真っ白の日が週に2日程度あるのが理想のようだ。

 ある人に、時間に追われるのではなく、時間を追うようにしなさい、と言われたことがある。

 自分だけの自由な時間を持って、今日は何をしなければいけないか、ではなく、何をしようか、という積極的な発想でありたい、というわけである。

 さて、早いもので今年も後3ヵ月程。来年のタイトル戦までに、私は何ができるのだろうか。

* * * * *

長野東急将棋まつり、大阪近鉄将棋まつり、週刊民社、近代将棋は無くなっているものの、現代においても、名人と王位を保持していて将棋まつりが2回あれば、ほとんどこのようなスケジュールになってしまうということだ。

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「時間に追われるのではなく、時間を追うようにしなさい」

頭ではわかってはいても、このような日程では、なかなかそうもいかない。

毎月がこのような日程ではないとしても、ここに研究会などが入れば、やはり過密さがすごいことになりそうだ。