将棋世界1988年12月号、駒野茂さんの「関東奨励会レポート」より。
「子供が三段かよ」―、こんな声が対局室でつぶやかれた。深浦が三段に昇段した瞬間である。
深浦は入品から、破竹の勢いで勝ちまくった。二段に駆け登り、そして今、11勝4敗と昇段の一番を迎えて愛二段と対戦。1図はその中盤で、深浦が▲4六同角とした局面である。
(中略)
深浦も「この手を指されていたら、大変でした」と。勢いのある者には、かならず運が向くというものであろう。
昨年の奨励会旅行でのこと。深浦三段が休憩中のバスの中でX君を相手にこんな会話をしていた。
X君「おい、子供。ジュース買ってこいよ」
深浦「ガキが千円くれたら、買ってきてやるよ」
年下の者にまで”子供”と言われた深浦三段。何とも言えぬ、涙ぐましい抵抗だ。しかし、今は以前とは違う。身長も伸びた、体つきも大人に、顔つきもしっかりと…。そして何より将棋の成長が素晴らしい。
もう誰も”子供”などと言う者はいないだろう。それだけ成長著しいのである。
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1987年の関東奨励会旅行、深浦康市初段(当時)がいじらしい。根性(ガッツ)が発揮されている。
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1987年の関東奨励会旅行の時点で、深浦初段は15歳。
年下の関東の奨励会員は
金沢孝史1級(14歳)
木村一基2級(14歳)
鈴木大介3級(13歳)
行方尚史4級(13歳)
奥山浩士4級(14歳)
三浦邦治5級(13歳)
上田純一5級(14歳)
野月浩貴5級(14歳)
三浦弘行5級(13歳)
田村康介6級(11歳)
などで、他に6級に9人。
「おい、子供。ジュース買ってこいよ」「ガキが千円くれたら、買ってきてやるよ」は、お互いに多少ふざけてくだけた雰囲気でのやりとりだったかもしれないが、史実(といってもX君が誰かはわからない)は別として、X君が誰だったならドラマ性が最も高くなるだろう、と考えてみるのも面白いかもしれない。