若手棋士・詰将棋タイムトライアル成績表(1988年版)

将棋世界1988年4月号、青島たつひこ(鈴木宏彦)さんの「駒ゴマスクランブル」より。

将棋世界1988年2月号、第3期天王戦優勝(全棋士参加棋戦初優勝)の時。

 編集部へ行く。と、うわさの天才・羽生四段が詰将棋を片っ端から解いている。何をやってるの、とのぞけば、今月号の付録「タイムトライアル112」に文字どおりタイムトライアルをしているのだ。これは面白い、というわけで、早速、駒ゴマスクランブルのネタに使わせてもらうことにした。

 まず、下表をじっくりご覧いただきたい。これはここ2週間ほどの間に編集部で、タイムトライアルにアタックしてくれた主な棋士の成績である。

「プロ棋士は、短い詰将棋なら、まばたきしているうちに詰ます」という伝説?があるが、この表を見るとそれがまんざらうそでもないことが分かる。

タイムトライアル成績表 初級 中級 上級
谷川王位 4分21秒 5分13秒 8分34秒
森内四段 4分26秒 8分32秒
村山四段 4分39秒 8分21秒 9分52秒
羽生四段 4分40秒 13分50秒 13分52秒
佐藤四段 4分59秒
田中寅八段 5分28秒 9分31秒 17分23秒
浦野五段 5分48秒 6分47秒 14分28秒
清水女流名人 7分55秒 14分24秒 32分11秒
塚田王座 8分35秒 18分45秒 41分3秒
沼五段 15分20秒 11分10秒 27分30秒
山田女流初段 22分52秒
青島たつひこ 27分10秒 パス パス

 若手プロは、初級40問に関しては、大体5分前後で解いている。これは1問につき約7秒の計算だ。いくら3手詰と5手詰ばかりとはいえ、中にはひっかけ問題のような作品もある。(31問…2図などがそれで、沼五段はこの1問だけで9分くらいかかっていた)それを平均7秒というのは、やはり速い。

 面白いのは初級40問では、かなり足並みのそろっていた成績が、中級、上級と進むにしたがって、かなりばらつきの出てくることだ。

 作者の野口益雄さんはこの表を見て、3つの点でびっくりしたそうだ。

「上級問題はかなり難しく作ったつもり。それを15分を切って解く人が何人もいるんだから驚いた。中でも谷川さんのは超人的。過去では塚田名誉十段や二上九段が速かったけど、今の谷川さんはこの二人の全盛時代に負けないと思う。女流名人の清水さん、これも女性としちゃ、信じられない速さ」と野口さん。

「恐らく谷川さんの記録はそのまま日本記録、清水さんの記録もそのまま、女性日本記録」というのが、野口さんの説である。

 ところで意外に遅い(失礼!)塚田王座の記録だが、これには「ボクは詰将棋解くのは苦手です。はい。でも詰将棋と実戦の力は関係ありませんから気にしてません」という、王座の言葉がある。

 とはいえ、記者が2、3の友人に試してみたところでは、アマなら(詰将棋作家は別として)県代表クラスの力の持ち主でも、初級20分、中級35分、上級1時間以上というのが標準のようである。それから見たら、塚田王座の記録だってかなりのものだし、谷川王位の記録などまさに神技といってもいいだろう。谷川王位の”光速の寄せ”というキャッチフレーズはダテじゃなかったのである。

 そしてもう一人注目の清水女流名人。彼女は詰パラなどの詰将棋を月に300題以上解くという「詰将棋大好き少女」であることもお知らせしておこう。

(以下略)

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将棋世界1988年5月号、青島たつひこ(鈴木宏彦)さんの「駒ゴマスクランブル」より。

 4月号の原稿を書いてから、何人かの棋士や奨励会員から「タイムトライアル、ボクもやった」という話を聞いた。勿論4月号の付録、タイムトライアル112の話だ。

「ボクも清水女流名人に負けました」と胸を張った?のは中村王将。青野八段は「男の棋士だって、全員にやらせたら丸一日かかる人も出てくるよ」。

 実は数日前にも、米長九段が編集部に現れ、大いに自慢していったそうだ。

「谷川は4分21秒、初級にかかったんだろ。オレは3分40秒。ハッハッハ」

 編集部員、ヘヘーッと大いに感心していたが、その後に中原名人がやって来た。

「初級で7分かかっちゃった」という中原名人、米長九段の記録を聞いて、

「ふーん、早いね。だけどそういう記録はやっぱり人前で正確に計ったものじゃないとねえ…」

 棋士はやっぱり、どんな時にも負けず嫌いのようでして…。

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初級40問の4分台は、100m走を9秒台で走るのと同じような感覚と言って良いだろう。

谷川浩司王位と、この当時の10代の棋士(羽生善治四段、森内俊之四段、佐藤康光四段、村山聖四段=羽生世代)が圧倒している(タイトル・段位は当時)。

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田中寅彦八段、塚田泰明王座、清水市代女流名人の所要時間を見ると、中級が初級の2倍の所要時間、上級が中級の2倍の所要時間で、きっと、このパターンが作者の野口益雄さんが思い描いていた展開だと思う。

谷川王位と浦野真彦五段が初級と中級の所要時間にあまり差がなく、羽生四段と村山四段が中級と上級の所要時間にあまり差がない。

それぞれの二人の棋士の詰将棋の解き方の感覚が似ているという可能性も考えられる。

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詰将棋解答選手権 チャンピオン戦の問題は超難問揃いだが、このような将棋世界付録の問題でのタイムトライアルも面白いかもしれない。

短距離走的な時間勝負なので、出場者はかなり疲れそうだが。

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1991年にも、将棋世界付録の詰将棋タイムトライアルが行われている。

「羽生なら3分35秒、郷田なら2分24秒」

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将棋世界1988年6月号、この期の名人戦第1局の時の写真。撮影は中野英伴さん。