中井広恵女流王位(当時)「将棋盤の前では、あれが女かと言われる程の強い女性に、離れたら、あれが勝負師かといわれるような優しい女性になりたい」

将棋世界1990年9月号、「第1期女流王位戦就位式行われる」より。レポーターは小田切紀子さん。

将棋世界同じ号のグラビアより。

 3連勝で、見事、初代女流王位の座についた中井広恵女流王位の就位式が、7月4日、東京日比谷の松本楼で行われた。

 鮮やかな花柄のツーピースに、スカイブルーのリボンで腰をきゅっとしめた中井さんは「素敵な置物を頂き、大変嬉しい。夫婦げんかで壊さぬよう気を付けたい」と、まず、謝礼。夫君の植山五段は後ろの方で控えめに座っていたが、実に嬉しそう。置物は、壊れそうにないとみた。また、ある馬好きの女の子が騎手になるまでのドラマが、勝利への特効薬になったという中井さんは「将棋盤の前では、あれが女かと言われる程の強い女性に、離れたら、あれが勝負師かといわれるような優しい女性になりたい」と抱負を述べ、会場から盛大な拍手を受けた。

=余談=

 松本楼のカレーはとってもおいしい。これを楽しみに来る人もいそう。胸がいっぱいなのかお腹がいっぱいなのか、主役の中井さんは食が進まぬよう。ラッキーとばかりに、もう一杯、御馳走になってしまいました。

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「将棋盤の前では、あれが女かと言われる程の強い女性に、離れたら、あれが勝負師かといわれるような優しい女性になりたい」

格好いい。

方向性は異なるが、昔のサントリーの黒澤明監督が出演した広告の「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」のコピーを思い出す。

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中井広恵女流六段は、就位式、前夜祭などでの名言が多い。

1984年第10期女流プロ名人位戦表彰式での祝辞→中井広恵女流二段(当時)「二つも持っているんだから、私に一つください」

1989年第15期女流プロ名人位戦表彰式→中井広恵女流名人(当時)「恋をしても強くなる」

1990年第1期女流王位戦→中井広恵女流四段(当時)「恋人のいない人なんかに負けるわけにはいかないわ」

1991年自戦記→「私は夢は99%かなう可能性がなく、残り1%を追うものだという考えを持っている。なぜなら、努力すれば何とかなるなら、それは”目標”になるからだ」

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ファンも喜ぶ、説得力のある言葉の数々。

このような言葉がパッと浮かんでくるのも、得難い才能だと思う。