将棋世界1990年6月号、青島たつひこさん(鈴木宏彦さん)の「駒ゴマスクランブル」より。
日本青年館にて、第2回富士通オープントーナメントのパーティーと抽選会。
世界でもトップクラスの大企業が後援してくれるアマプロ戦。今のところはややこじんまりとした大会形式だが、近い将来、大きく発展していくことだろう。
今回はプロ側の選考に大いに苦心のあとが見られる。
桐谷五段、森五段、武市五段、神吉五段、畠山成幸四段と畠山鎮四段の双子の兄弟、郷田四段、林葉女流王将…。
正直に言って、かなり意表を突くメンバーである。この日の抽選会には、武市五段、神吉五段、畠山鎮四段の3人を除く5人のプロが顔を見せていた。
「1回戦にまぐれで勝って、2回戦で林葉さんと当たることができれば、ひょっとしたら準決勝まで勝ち進むことができるかもしれません。頑張ります」
スーツも髪型もぴしっと決めた桐谷五段。
「プロ側の人選を見ると、今回はアマの方にも勝っていただきたいという意図が見られるようで…。私も若手のプロが強いとは思いますが、賞金に魅力があるので頑張りたいと思っています」
あくまで気さくな森五段。
「頑張って、できれば弟と二人で決勝を戦いたい」
ストレートな畠山四段。
「目標は、ずばり優勝です」
やる気満々、郷田四段。
「女に負けるというのは恥ですよね。私と当たるアマの方、それをプレッシャーに感じてきてください」
紅一点、22歳。なのにもう風格さえ感じられる林葉女流王将。
抽選の結果、林葉女流王将は昨年のアマ名人・広島の宮本さんと対戦することになった。
桐谷五段が林葉さんに言う。
「ついてないなあ、林葉さん。一番強い人と当たっちゃったねえ」
いたずらっぽい目で笑った女流王将のせりふがかっこよかった。
「ふふっ。でも若いから」
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将棋世界同じ号より。
出場アマプロ
- 神吉宏充五段 31歳
- 桐谷広人五段 40歳
- 郷田真隆四段 19歳
- 武市三郎五段 36歳
- 畠山成幸四段 20歳
- 畠山鎮四段 20歳
- 林葉直子女流王将 22歳
- 森信雄五段 38歳
- 青野功アマ(職団戦A級優勝)31歳
- 金子タカシアマ(アマ竜王)28歳
- 菊田裕司アマ(学生名人)19歳
- 小島一宏アマ(東京地区予選会優勝)31歳
- 中平貴将アマ(大阪地区予選会優勝)56歳
- 中村知義アマ(大阪地区予選会優勝)27歳
- 橋下清志アマ(東京地区予選会優勝)22歳
- 宮本浩二アマ(アマ名人)24歳
抱負
- 神吉宏充五段 -
- 桐谷広人五段 選出は意外だったが一局でも多く指したい
- 郷田真隆四段 優勝を狙います
- 武市三郎五段 狙います
- 畠山成幸四段 兄弟で勝っていきたい
- 畠山鎮四段 決勝の公開対局でおもしろい将棋を指したい
- 林葉直子女流王将 プロの先生に一局教えてもらいたいので頑張ります
- 森信雄五段 (タテマエ)頑張ります(ホンネ)賞金が魅力です
- 青野功アマ プロとの対局で将棋に対する新たな発見をしたい
- 金子タカシアマ 頑張ります
- 菊田裕司アマ もちろん優勝
- 小島一宏アマ 死ぬまでに一度プロに勝ちたい
- 中平貴将アマ 壮高年アマ棋客の刺激となる将棋を
- 中村知義アマ プロの技術を吸収できるチャンス
- 橋下清志アマ 参加できて光栄、全力を尽くして頑張る
- 宮本浩二アマ いい将棋を指したい
1回戦の勝敗およびその理由
- 神吉宏充五段 プロ4勝、2回戦も全部アマプロ戦にしたいから
- 桐谷広人五段 プロ5勝、持ち時間短縮はアマ有利。若手でないプロも数人出るので
- 郷田真隆四段 プロ5勝、なんとなく
- 武市三郎五段 プロ6勝、二人ぐらいは負けそう
- 畠山成幸四段 プロ6勝、なんとなく
- 畠山鎮四段 プロ5勝、なんとなく
- 林葉直子女流王将 プロ6勝
- 森信雄五段 プロ5勝(ホンネは4勝?)
- 青野功アマ アマ2勝
- 金子タカシアマ アマ3勝、前回並みの成績は残したい(願望です)
- 菊田裕司アマ アマ3勝、中村氏・宮田氏+1
- 小島一宏アマ アマ3勝(希望をこめて)
- 中平貴将アマ アマ4勝、前回を上回る成績を!
- 中村知義アマ アマ3勝、アマに勢いのある人が多いから
- 橋下清志アマ アマ2勝
- 宮本浩二アマ アマ4勝(希望的観測から)
優勝者は?
- 神吉宏充五段 私に決まっとるといいたいが、個人的に林葉さんを応援
- 桐谷広人五段 畠山兄弟のどちらか
- 郷田真隆四段 自分だといいですね
- 武市三郎五段 四段から出ると思うが、当然私も狙います
- 畠山成幸四段 出来れば自分が……
- 畠山鎮四段 プロ若手から出ると思う
- 林葉直子女流王将 願望も含めて神吉五段
- 森信雄五段 (ホンネ)私かな
- 青野功アマ 神吉五段
- 金子タカシアマ 神吉五段
- 菊田裕司アマ -
- 小島一宏アマ 神吉五段
- 中平貴将アマ 私を破った選手
- 中村知義アマ 神吉五段
- 橋下清志アマ 郷田四段
- 宮本浩二アマ 判りません
得意戦法
- 神吉宏充五段 相手のニガ手戦法
- 桐谷広人五段 矢倉
- 郷田真隆四段 特になし
- 武市三郎五段 なし。好きな戦法は本に書いていない将棋
- 畠山成幸四段 なし
- 畠山鎮四段 全部ヘタなのでない
- 林葉直子女流王将 ハッタリの攻めといい加減な寄せ!!
- 森信雄五段 振り飛車が多い
- 青野功アマ 四間飛車
- 金子タカシアマ 振り飛車・居飛車穴熊
- 菊田裕司アマ -
- 小島一宏アマ 雁木・タテ歩棒銀・穴熊・切れ勝ち
- 中平貴将アマ 居飛車速攻
- 中村知義アマ 四間飛車
- 橋下清志アマ 矢倉・居飛車穴熊
- 宮本浩二アマ ウソ矢倉
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富士通オープントーナメントの第1回の時は、1回戦、プロの5勝3敗だった。
勝ったのは、木下浩一四段、石川陽生四段、本間博四段、小林宏五段、中川大輔四段。
敗れたのは、屋敷伸之四段、中田功四段、中井広恵女流名人。
優勝は小林宏五段で優勝賞金100万円を獲得した。
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1回戦で敗れた屋敷四段の自戦記→屋敷伸之四段(当時)「将棋の棋譜は書きたくない。けれど何かが書きたかった」
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第1回は若手中心だったが、第2回は個性派の棋士に重点を置いた人選だったという。
1回戦の結果は、アマが頑張り、プロの3勝5敗だった。
- 神吉宏充五段◯-金子タカシアマ●
- 畠山鎮四段◯-小島一宏アマ●
- 桐谷広人五段●-菊田裕司アマ◯
- 武市三郎五段●-橋下清志アマ◯
- 郷田真隆四段●-中平貴将アマ◯
- 林葉直子女流王将●-宮本浩二アマ◯
- 森信雄五段●-青野功アマ◯
- 畠山成幸四段◯-中村知義アマ●
決勝は畠山成幸四段-畠山鎮四段戦で、畠山鎮四段が勝って優勝している。
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1回戦で敗れた郷田四段(当時)は、敗局後も特に表情は変わらなかったが、感想戦終了後、担当の観戦記者に「ボロクソに書いといてください」と言って対局室を去ったという。
無念さが凝縮された言葉だ。