すぐに役立ちそうな関西流B面攻撃

将棋世界1994年4月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時 in 関西将棋会館」より。

 最終局を待たずして関西の個性派二人がめでたくそのハードルを超えた。

 神崎健二。激戦区のC2を9戦全勝で昇級一番乗り。

「緊張したのは対局前でした。勝って上がったら、自分はどんな事になんねやろと思ってました。舞い上がって、ひょっとしたら泣き出してしまうんちゃうやろかなんて………ところが対局が始まると至って冷静で、ああこんなもんかと」

 その冷静だった神崎の相手は、C2最強のストッパーの一人、中田宏樹六段。

 1図は両者得意の組み手、矢倉の戦いだが、神崎の目線は敵陣ではなく、自陣をひたすら見つめていた。何故?

1図以下の指し手
▲7五歩△同角▲7六銀△8四角▲8六歩△同歩▲8五歩△9三角▲8六角△8五桂▲7三歩△3五歩▲7二歩成△同飛▲8五銀(2図)

 

 手順が長くて申し訳ないが、神崎の手の動きに注目してほしい。▲7五歩から始まる一連の手順は、とても昇級の一番とは思えない大胆な構想。

 どんどん相手の攻め駒を責めて駒得を果たした神崎だが「いやあ、自ら相手の飛車角を攻めていく手は、仲間から関西のマッサージ師と呼ばれてしまいました。本家のように上手くいかなかったですけど、まあ私らしいでしょう」

(中略)

 自玉の堅い時の神崎の攻めは、絶対引かない事で定評があるが、本局も攻めて剥がして殴りかかる。勢いが中田を圧倒して午前1時4分、投了に追い込んだ。このあと、敗者の中田を食事に誘い「今日は緩めていただきました。そうそう、全日本プロ、ベスト4おめでとうございます。優勝目指して頑張ってください」とはなかなかの心配り。

 しかし確か日ごろ食事をご馳走になっている淡路八段にも「全日プロ最後のチャンスかもしれませんし、是非頑張って優勝してください」ってゆうとったな。この二人は今度当たっているはず。何か矛盾しているような………

「ははは、まあどっちにしても負けてほしくないと、そういうことです」。

 何やら政治みたいに玉虫色で、ようわからん答弁やのう。

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「最終局を待たずして関西の個性派二人がめでたくそのハードルを超えた」

もう一人は井上慶太六段(当時)で、C級1組からB級2組に昇級を決めている。

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1図の後手の7筋~9筋の攻撃陣形はよく見る形だが、先手に2歩あれば、このようなB面攻撃ができるということになる。

神崎健二五段(当時)が指したこの手順は、覚えておけば、かなり役に立つ手筋だ。

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「仲間から関西のマッサージ師と呼ばれてしまいました。本家のように上手くいかなかったですけど、まあ私らしいでしょう」

B面攻撃とマッサージは、将棋においてはほとんど同義語。

この会話で出てくる本家とは、桐谷広人六段(当時)のこと。

桐谷流マッサージ戦法

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中田宏樹六段(当時)への「今日は緩めていただきました。そうそう、全日本プロ、ベスト4おめでとうございます。優勝目指して頑張ってください」と、淡路仁茂八段(当時)への「全日プロ最後のチャンスかもしれませんし、是非頑張って優勝してください」。

たしかに、厳密には矛盾ということになるのだろうが、こと将棋の対局の場合は、矛盾でもないような感じがする。

「どちらにも負けてほしくない」あるいは「どちらも勝たせたい」と思うことが、将棋の場合は日常茶飯事。

その最も大規模な例が、タイトル戦前夜祭の主催者や地元関係者のあいさつだろう。

このような素晴らしい矛盾は、大いにあって良いことだと思う。

 

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